アウトドアでは、必然的に昆虫と出会う機会が多くなります。昆虫少年や虫愛ずる姫君じゃなくても、昆虫って観察してみると、意外とかわいらしく見えてくるものです。
このシリーズではそんな、ちょっと気になる虫たちについて、昆虫の専門家にお話をお聞きしていきます。
今回は、街中でも鳴き声をよく聞く夏の風物詩・セミを取り上げます。現在、特別展『やばすぎる!セミ展』を開催中の、橿原市昆虫館の学芸員、池田さんに詳しく教えていただきました。
地上に出てきたら1週間で死ぬ運命ってホント?
セミといえば、幼虫は地中で7年過ごし、成虫として生きられるのは1週間という話を聞きますが、本当にそうなのでしょうか。
「以前、片っ端から羽化したセミを捕まえてマーキングするという調査を行った際には、平均すると2週間くらい生きていることがわかりました。
天敵に襲われることもあり、なかなか過酷な人生、いや蝉生ではあるのですが、条件がよければ一カ月くらい生きている個体もいますよ」(池田さん)
また、地中で過ごす期間も、セミの種類によっていろいろ。
ツクツクボウシで1~2年、アブラゼミで3~4年、クマゼミで4~5年程度、「17年ゼミ」にいたっては、その名の通り、17年くらいの間、地中で過ごすようです。
この期間を含めると、セミは昆虫としてはむしろ長寿なのかもしれませんね。
神秘的なセミの羽化を観察したい!
幼虫の背中が割れて、セミが羽を広げていく様子はとても美しいものです。実際に、この目で見てみたいのですが、羽化するセミは簡単には見つからないものなのでしょうか。
「種類を問わないなら、そう難しいことではありません。まずは日中、セミがよく鳴いている場所へ行って、ぬけがらがないか探してみてください。よく木の枝や幹にくっついていますよ。
そして、日が暮れる頃に、もう一度その場所へ行ってみましょう。きっと、地中から出てきて、羽化する場所を探して歩いている幼虫を見つけることができるはずです」と池田さん。
大切に扱えば家の中での羽化の観察も
幼虫を見つけるのは、それほど難しくないことは分かりましたが、正直、夏の夜に外でじっと観察していると、蚊の餌食になりそうで心配です。
そんなときは、歩いている幼虫をそっと捕まえて窓際のカーテンにでもくっつけておき、室内でじっくり観察するのも手であると池田さんは言います。
「だいたい夜の8時か9時くらいから羽化が始まって、抜け殻から出てきても羽が伸びて乾くまで、しばらくじっとしています。翌朝、日の出と共に飛び立っていくので、窓を開けて旅立ちを優しく見送ってください」(池田さん)
ただし、羽化の途中でセミに刺激を与えないよう、観察中は注意が必要とのこと。
刺激によってセミが羽化できなくなったり、下に落ちて死んでしまったりすることがあるそうです。
長い間土の中で生き延びて、ようやく地上に出てこられたのに、そんな目に遭うのはかわいそうすぎるので、捕まえるなら大切に扱ってあげてくださいね!
セミの正体は「羽が生えた仙人」?
不思議な一生を送るセミ。生態以外にも、セミにはこんなユニークなエピソードもあります。
「古代中国では、ずんぐりした幼虫の姿から、美しく透き通った羽が生えた姿へと変わるセミのことを、人が仙人になって羽が生え、神仙世界へ昇っていく〝羽化登仙(うかとうせん)〟に似ていると考えていたようです」
「死後に仙界へ昇っていけるようにと、ヒスイで作ったセミの彫刻を、亡くなった人の口に含ませる風習もあったそうですよ」(池田さん)
セミの羽化の様子はとても感動的です。古代の人もその神秘の瞬間に、人智を越えた力を感じていたのかもしれませんね。