春の空といえば、「春霞」という言葉があるように、少しかすみがかかったイメージがあります。
春霞の発生には、冬の間は休眠状態だった植物がいっせいに活動を始めて、葉からの蒸散が活発化することや、昼夜の気温差が大きくなることから、大気中の水分が微粒子状になりやすいことなど、複数の要素が影響しているようです。
さらに春は、大陸の黄砂の表面を覆っていた雪や氷が気温の上昇と共に溶け、砂が巻き上がり、偏西風に乗ってはるばる日本列島まで飛んでくる季節でもあります。
スギやヒノキの花粉で、空まで黄色っぽくかすんでいる日もありますね(泣)
風情ある「霞(かすみ)」と「朧(おぼろ)」
旅に生き、旅を詠んだ漂泊の歌人・松尾芭蕉が、41歳の時、9カ月にも及ぶ長い旅に出て、『野ざらし紀行』を編みました。
辛崎の 松は花より 朧にて
その43句のうち、近江八景のひとつ「唐崎夜雨」を詠んだのが上記の句です。前年8月に江戸を出立し、東海道から伊賀を回り、風光明媚な琵琶湖のほとりまで来たのは春だったようです。
詩歌の世界では、「花」と「朧」はつきもの。春の夜、ぼんやりとかすんで見える状態を「朧」と呼びます。
昼間にかすんで見えるのは「霞(かすみ)」。昼と夜で言葉の使い分けをするようです。
「うすぐも」と「おぼろぐも」
うっすらとしたベールのような雲のうち、最も高いところにできるのが「巻層雲」、通称「うすぐも=薄雲」です。細かい氷の粒でできていて、薄く広がり、とくに形はありません。
空の上層にこの雲がかかると、月や太陽がぼんやりと見えて、日暈(にちうん/ひがさ)、月暈(つきがさ)が見えることがあります。
日暈は「ハロ現象」とも呼ばれています。薄雲を構成している細かい氷晶が、プリズムの働きをして、太陽の光を屈折させることによって起きる現象です。「白虹(はっこう)」と呼ぶこともあります。
天気が下り坂の時によく現れるのですが、一般にはあまり知られていないため、目撃すると「幸運の前兆では?」などと、ちょっとテンションが上がりがち。
その後、幸運が訪れるかどうかはわかりませんが、この現象を起こした薄雲が厚くなってくるようなら、天気は下り坂。雨が降るかもしれないので、早めに帰宅した方がいいかもしれません。
「おぼろぐも=朧雲」は、巻層雲より低いところにできる「高層雲」のことです。
雲の高度が低くなり、全天に墨を流したような雲が広がってくると、雨が降り始めることもあります。
うすぐもが次第に厚くなってきたり、おぼろぐもが太陽や月の光を通さなくなってきたりすると、それは今後のお天気が下り坂になるというサインです。
このように雲の変化を観察することは、アウトドアにおいて、危険を察知するための大事な要素のひとつです。
【監修】
大矢康裕
■プロフィール:気象予報士、気象予報士会CPD認定第1号。山岳防災気象予報士として活動。著書に『山岳気象遭難の真実 過去と未来を繋いで遭難事故をなくす』(山と溪谷社)