世界で一番危険な昆虫は何でしょう?
こう質問されると、毒をもつハチやクモ、一時期話題となったヒアリなどを真っ先に思い浮かべるかもしれません。
しかし実際、最も多くの人間を殺しているのは蚊です。
世界では、蚊が媒介する感染症で亡くなる人が、年間70万人以上いるといわれます。昆虫だけでなく、あらゆる生き物のうち最も危険ということになります。
今回は、蚊が媒介する感染症について、「KINCHO」の商標でおなじみの大日本除虫菊株式会社・宣伝部の笹岡さんにお話を伺いました。
蚊がさまざまな感染症を媒介するのは何回も吸血するから
笹岡さんによると、「世界で3000種以上いるといわれる蚊のうち、血を吸うのは約2500種です。血を吸う=病原体を運ぶ、というわけではなく、感染症を媒介する蚊は2500種のうち約300種といわれています」とのこと。
全体から見ると300種は一握りですが、それでも恐ろしいことに変わりはありません。
「昆虫やダニが媒介する感染症は50種類ほどあって、このうち30種類がウイルス性の感染症です。蚊はそのうちの22~23種類に関わっているといわれます。昆虫のなかで一番の危険生物ですね」と笹岡さん。
では、蚊に刺されるとなぜ感染症にかかるのでしょうか。
「蚊は生涯に4~5回血を吸うといわれています。病原体をもつ人または動物から吸血すると、蚊は病原体をもった状態になります。その蚊が別の人を吸血することで、蚊の体内にある病原体が人の体内に入り感染します」
動物から人へ、人から人へ。血液を複数回吸うからこそ、蚊は感染症を広めてしまうようです。
日本にもあった! 蚊が媒介する恐ろしい感染症①
日本にいると、蚊に刺されたら感染症にかかると考える人は少数派。自分には関係のないどこか遠い南国の話、ぐらいに感じている人も多いのではないでしょうか。
しかし、蚊が媒介する恐ろしい感染症の代表格で、2021年の1年間で60万人以上の命を奪ったというマラリア(2022年12月に公表されたWHOの報告による)は、かつて日本でも流行していたといいます。
「マラリアは発熱と悪寒を繰り返す『間欠熱(かんけつねつ)』の症状が特徴です。『平家物語』の記述から、平清盛はマラリアで亡くなったという説が有力なんですよ」と笹岡さん。
生活環境の改善や治療薬の効果、媒介するハマダラカの減少により、幸いにも1959年を最後に日本での国内感染は報告されていないとのこと。
「それから、フィラリア症も蚊が媒介する感染症のひとつです。人のリンパに住む糸状の寄生虫が、皮膚がゾウのように肥大する象皮病や、陰嚢水腫といった生殖器疾患などを引き起こします。かつては日本でも蔓延していて、平安時代や江戸時代の絵に患者が描かれていたりするんですよ。西郷隆盛もこの感染症にかかっていたといわれます」
日本では、1988年に人のフィラリア症が根絶されました。これは世界初の快挙です。しかし犬や猫のフィラリア症は、現在でも予防薬を投与していないと、発症してしまう可能性が高い恐ろしい感染症です。
ほかに、日本脳炎も蚊が媒介する感染症です。
「日本脳炎はコガタアカイエカが日本脳炎ウイルスを媒介してかかります。日本脳炎ウイルスを保有する蚊に刺されても多くの人は発症しないといわれています。しかし、発症すると高熱、頭痛、嘔吐がみられ、次いで意識障害やけいれんなどの症状が出ます。重症化すると後遺症が残ったり、最悪の場合は死に至ったりする可能性があります」と笹岡さん。
現在日本では予防接種によって患者数は減少しましたが、東南アジアなど温帯・熱帯地域では広く流行している感染症とのこと。
さまざまな感染症が減少・根絶された日本ですが、安心はできません。
もうないと思われている感染症や、いままでになかった感染症も、温暖化によって蚊の生息域が広がり、危険が高まっています。
感染の可能性が低い恵まれた日本にいても、決して油断してはならないのです。