旅の本屋「のまど」の店長・川田氏が、店頭に並ぶ本のなかから、外にでかけてみたくなるキャンプ・アウトドア好きのための本を選びます。今回はキリスト教の三大巡礼地のひとつスペイン・サンティアゴへ向かう、40日間に渡って巡礼の道を旅するお話です。
聖地サンティアゴとその巡礼路
本書は、旅やアウトドア関連の仕事をしているフリーライターの著者が、キリスト教の三大聖地の一つであるスペイン・ガリシア州の州都「サンティアゴ・デ・コンポステーラ」への巡礼路800kmを40日間で歩いた旅の記録です。その際に体験した、出会い、別れ、そして再会が記されています。
スペインでは、「カミーノ・デ・サンティアゴ」と呼ばれているこの巡礼路は、エルサレム、ローマに並ぶキリスト教の三大巡礼地として中世から多くの巡礼者が歩いてきました。 サンティアゴ・デ・コンポステーラの大聖堂には、キリストの弟子である聖ヤコブの遺骸が埋葬されており、この遺骸に礼拝するための旅がサンティアゴ巡礼です。
巡礼路は、主にフランス各地からピレネー山脈を経由し、スペイン北部を通る道を指します。フランスからスペインに向う道は、「トゥールの道」、「リモージュの道」、「ル・ピュイの道」、「トゥールーズの道」の主要な4つの道がのびています。スペインに入ると、ナバラ州からカスティーリャ・イ・レオン州の北部を西に横切りサンティアゴ・デ・コンポステーラへ向かう「フランスの道」が一番メジャーなルートです。
コロナ前までは世界中から年間何十万人もの巡礼者の方が訪れていて、日本でもここ数年、テレビのドキュメンタリー番組などで紹介されることも多くなり、興味を持つ人が増えているそうです。
巡礼の魅力は何気ない風景
当店でもサンティアゴ・デ・コンポステーラへの巡礼路に関してのイベントは何度も開催したことがあり、その都度、実際に巡礼路を歩いて体験してきた著者の方が「歩くのは大変だったけど、友達も多く出来てすごくいい旅だった。出来ればまた行きたい」と口をそろえて言います。
本書の著者である戸谷さんも、他の体験者と同じようにこのサンティアゴ・デ・コンポステーラへの巡礼路の旅の魅力にハマってしまったようで、その魅力をどうしても本という形で色んな人に伝えたいという思いが、随所に感じられます。
本書の中では、実際に戸谷さんが歩いた「フランス人の道」を出発地のサン・ジャン・ ピエ・ド・ポーからゴールのサンティアゴ・デ・コンポステーラまで800kmの道のりを経路順に沿って時系列で紹介しているのですが、まず一番の魅力は歩きながら目にすることになる雄大な景色や美しい街並みです。
しかし、ピレネーの山々やブルゴスの大聖堂といった有名な場所以上に印象的なのは、名前も知られていない小さな村の並木道や特に有名でもない小麦畑など、何気ない景色が美しく見えるということでしょう。
そして何よりもこの巡礼路を歩くことの最大の魅力は、風景以上に人との出会いだと著者はいいます。エステージャという街のアルベルゲで出会ったスペイン人と話した際に、「カミーノで一番大事なのは歩くことではなく、世界中から来た人と話をすること」と言われたことが、巡礼路の長い旅の中で心に響いたのだとか。