ヒグマに襲われて腹わたを食い破られて失血死するのと、アナコンダに頭から飲み込まれてだんだん溶けていくのと、ふたつの死に方のうちどっちかひとつを選ばなきゃならないとしたら、あなたはどっちがいい? って、どっちもヤだよ! でも、短時間で死ねるだけ、まだヒグマの方がマシかな……。
本書は、そんなクマによる死亡事故を網羅したハンドブックである。
クマが怖いというより北海道自体が怖いよ!
日本では、北海道のヒグマを筆頭に野生のクマが生息しており、ときおり人が襲われたというニュースを目にすることがある。なかでも、もっとも有名なのが「三毛別羆事件」だろう。
1915年(大正4年)の暮れ、北海道の三毛別にある開拓集落をヒグマが襲い、妊婦の腹の中の胎児も含む7人もの死者を出した凄惨な事件である。5日後に射殺されたヒグマは、体長2.7m、体重340kgという想像を絶する大きさだった。
この三毛別羆事件は、ドキュメンタリーやフィクションの題材としても頻繁に取り上げられており、それで事件のことを知った人も多いだろう。ぼくは記録文学の巨匠、吉村昭の傑作『羆嵐』で事件の全貌を知り、心の底から震え上がった。なかでも被害者の妊婦が、いままさに自分に襲いかかっているヒグマに「腹破らんでくれ! 喉食って殺して!」と懇願する場面には、目の前が真っ暗になったものだ。
本書は「事件簿」とあるように、明治以降に記録に残されたクマ事件──これを熊害(ゆうがい)と呼ぶそうだが──を、時系列に沿って紹介している。第1章のトップを飾るのは、1875年(明治8年)に北海道の弁辺村(現在の豊浦町)で起こった事件。ヒグマが一軒の家屋を襲い、男性1名を咬み殺し、女性2名に重傷を負わせた。いきなり悲惨である。
続いてページをめくると、次は1878年(明治11年)に札幌で起こった事件が掲載されている。
発端は、山中で冬眠しているヒグマを発見した猟師が、いいチャンスとばかりに狙いをつけて撃ったがハズレ。激昂したヒグマに逆襲されて猟師は死亡。それでもなおヒグマの怒りは収まらず、山を降りて札幌の街までやってきて暴れ回り、さらに2人が食い殺されたという事件である。
と、こんな感じでね、日本で起こった熊害事件が紹介されていくわけだけど、ページをめくれどめくれど事件の発生場所が北海道なんだな。1983年(昭和58年)になってようやく(という言い方もどうかと思うが)本州・秋田県の事件が登場する。でも、その次からはまた北海道が続いていく。もうクマが怖いっていうより、北海道自体が怖いよ!