テントといえば、野外での活動や生活に欠かせない道具のひとつ。南極でも1820年に大陸が発見されて以来、盛んに行われた探検や調査などにテントが使用されてきました。
これまでに60年以上にわたって観測を続けてきた南極地域観測隊も、現地でテントに宿泊することがあるといいます。南極出発前に全隊員が行う冬期総合訓練では、雪の中でのテント泊が重要なフィールドワークのひとつとなっています。
地球上で最も寒冷な地域のひとつである南極では、どんなテントが使われ、隊員たちはどんな経験をしているのでしょうか。国立極地研究所の職員で、南極経験の豊富な永木毅(ながきつよし)さんにお話を伺いました。
南極でテントに滞在するのはどんなとき?
永木さん曰く、「南極観測隊員の大多数は、基地を拠点にしています。だから全員がテントに泊まるわけではないんです」
テント滞在は夏の期間のみです。南極地域観測隊にはさまざまな観測を行ういくつものグループがあり、観測地点に小屋などの拠点がなければ、テントを張ることになるのだそう。
ただし、テント泊の期間はグループによってさまざまです。
「1泊のこともあるし、2週間のこともある。夏の間に行動できる期間は約50日ですが、その間ずっと同じ場所でテント暮らしをする人もいます」とのこと。
ハードな環境のなか、長期にわたるテント滞在によって、地球の未来を予測するための重要な観測が行われているのです。
ピラミッドテントは南極ならではの大事な道具
永木さんも、南極でたびたびテントに泊まることがあるそうです。
どんな特別な装備かが気になるところですが、テントや寝袋、防寒靴などはアウトドアメーカーによる冬山向けの市販品で、日本でも普通に手に入るものだそうです。
南極ならでは、といえそうなのは、古くから使われている「ピラミッドテント」という三角形のテント。
「ピラミッドテントは現在国内ではほとんど見ませんが、簡単に立てることができて風にも強いんです。ポールがすごく太くて安心して使えます」と永木さん。
大陸氷床上の冷たい空気が密度を増して斜面を流れ下りる「カタバ風」が、常時吹いているという南極。雪をともなうブリザードが激しく吹き荒れることもあります。そのため南極では風に強いテントが必要不可欠。ピラミッドテントだけは古いものを直して使い続けたり、同じものを注文して作ってもらったりするのだそうです。