緯度や標高が高い地域のキャンプ場だと、まだ気温が低いので寒さ対策は必須です。寒さによって起こる低体温症や、温めようとして起こる低温火傷、テント内の保温による一酸化炭素中毒事故には十分注意しなければなりません。今回は低体温症について、アウトドア医療のプロで医師の稲垣先生に聞いてみました。
キャンプの飲酒&居眠りで低体温症に
低体温症は、生理学的には子どもと高齢者がとくに起こしやすいですが、キャンプなどにおいては大人こそ気を付けなくてはいけません。たとえばお酒を飲んだ場合、アルコールの作用で末梢の血管が開いて体の熱が逃げてしまい低体温症になりやすくなるからです。そのうえ、酔っ払って寒い場所で眠ってしまえば、気が付いたときには低体温症に陥っていることが考えられます。このようなケースでは、夏場であってもそのリスクがあります。
環境から奪われる熱>体内の熱産生で起こる低体温症
外の環境から奪われる熱が、体が作り出す熱を上回り、体が体温を維持できなくなったとき低体温症となります。寒い環境に置かれると体は熱を作り出すための震え「シバリング」を起こします。歯がカチカチ鳴ったり、全身がガタガタ震えるのがそれです。さらには体の表面から熱を逃さないように末梢の血管を絞める「シェルコア作用」を起こします。
手足が冷たくなったり、鳥肌が立ったりするのはそのためです。それでも体温が維持できなくなると、いよいよ低体温症となり脳の機能に影響が出ます。動作が緩慢になったり、反応が悪くなったり、逆に興奮したり錯乱したりといった症状が現れ、対処できない場合は命に関わります。
低体温症には2種類の起き方があります。例えば、冷たい湖や川などに誤って落ちてしまい一気に体が冷える場合を急性低体温症といい、行動しているなかで時間をかけて体が冷えていった場合は、亜急性低体温症といいます。前者の場合は、体の中に熱を作り出すエネルギーがまだ残っているので、震えることができていれば、熱を奪われない環境で保温することで回復する可能性があります。
しかし後者の場合、気付いたときには既に体の中の熱産生のエネルギーが枯渇した状態になっていることが考えられます。まず寒い環境から保護することは同じですが、保温や加温をするより先に、熱産生のためのエネルギーを摂らせる必要があります。
熱産生のためのエネルギー源は、糖類→炭水化物→タンパク質→脂質の順で摂取していきます。ブドウ糖は糖類のなかでも最も吸収が早い物質です。糖類や炭水化物のような吸収の早いものを焚き付け材として火を起こし、タンパク質、脂質といったゆっくり吸収するものを薪にして体温を維持できるようにしていきます。