近年、ニュースで頻繁に報じられるようになった、クマの市街地出没や人的被害。2021(令和4)年、北海道における熊害(ゆうがい)事件数は、統計を取り始めた1962(昭和37)年以来、最多となりました。北海道以外の山中や市街地でも、クマの目撃情報などが増えている今。アウトドアを楽しむとき、自然の中に入っていく人間側が不用意にクマに出遭ったり、襲われたりしないよう、どのように注意が必要なのか。クマ研究の専門家、山﨑晃司先生に伺うシリーズの第1回目です。
クマの冬眠明けは4~5月
日本に生息するクマは、北海道のヒグマと、本州・四国のツキノワグマです。ツキノワグマの生息に関して、九州は1940年代に生息数がゼロになり、四国は徳島県、剣山系の狭い範囲に20頭前後が残るのみです。
体の大きさは、ヒグマのオス成獣が200~大型で400kgくらい、メス成獣が100~大型で200kgくらい。ツキノワグマのオス成獣が60~100kg、メス成獣が40~60kgくらいです。どちらの種類も行動範囲はメスよりも、オスのほうが広範囲にわたります。その個体数はというと、ヒグマは現在約1万頭、ツキノワグマは約3~5万頭と分析されていますが、山奥をホームとするクマの実数を正確に把握することは、専門家でもとても難しいといいます。
どちらの種類も基本的な生活サイクルは同じですが、季節、積雪地帯か無積雪地帯か、緯度などによって時期的なズレは生じます。一般的には初夏のころに繁殖期を迎え、冬眠入りが11~12月ごろ。冬眠明けが3~4月、妊娠したメスは穴の中で出産し、4~5月に穴から子どもと出てきます。ですからクマが穴の中で過ごすのは5カ月ほどになります。
「冬眠明けのクマは人を襲う」は少し違う
最近は「冬眠しないクマもいるのでは?」とする説もあるのですが、その事例が確実に確認されたことはないのだとか。しかし、冬眠中に穴を変える例はあるようで、その理由としては穴の近くを猟犬や人が通ったなど、何らかの「不安」があって安心して眠ることができなくなった場合、穴の移動があるのではないかとされています。しかし、その詳しいメカニズムはわかっていません。
クマの冬眠穴は、ヒグマとツキノワグマは違いがあります。ヒグマは自分で土に穴を掘ることができるので、雪などによって穴が隠れて一見してわからない場合も多いのですが、ツキノワグマは自分で穴を掘ることができず、岩の間の空洞や、木の根のすき間、樹洞など自然の穴を利用して冬眠します。
冬眠中は絶食状態なので、冬眠明けに穴からクマが出てきたとき、空腹により気が立っている。そのようなときに人に遭遇すると襲うことがある、とする「冬眠明けのクマが危険」の説について山﨑先生は「空腹は関係ありません。穴から出て、食べ物を探すため行動範囲を広げて移動するため、人と遭遇する確率が上がる、というのが本当のところだと思います。冬眠明けのクマが危険なのではなく、その時期、クマが食べたいものがある場所に人間が行ってしまうため、バッティングしてしまうことが危険なのです」。山菜を採りに山へ入った人がクマに襲われる例があとを絶たないのは、そのためです。