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芥川賞受賞作『バリ山行』で描かれる登山ルート! 地図にもない「六甲山のベテラン登山コース」にも要注目

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  • 岩場
  • 横池
  • マップ
  • ヤブ
  • 最高峰北側へ続く道
  • 展望
  • 岩場
  • 黒岩谷西尾根取り付き
  • 加藤文太郎記念図書館
  • 加藤文太郎像
  • 雨ヶ峠
  • 魚屋道

本記事では、芥川賞受賞作『バリ山行』で描かれているコースを紹介します。

『バリ山行』の主人公である波多さんは、以前の会社で突然のリストラに遭い、少しめんどうな社内付き合いも社会人としてのマナーみたいなものか、と思って会社の登山に参加するようになったのですが、次第に登山そのものが面白くなってきます。

いい運動にもなり、ちょっとした小旅行気分も味わえる登山の魅力に惹かれ、同時に社内での〝身の置きどころ〟を見つけたように思えたのです。

そんなある日、社内ではちょっと浮いた存在である「妻鹿(めが)」さんが登山部の山行に参加することになりました。社内で唯一、妻鹿さんに目をかけてくれていた常務の藤木さんが退職することになり、下山後に有馬温泉で送別会をするというのです。

〝孤高のソロ登山者〟妻鹿さん

ところが当日、集合場所の駅前広場に妻鹿さんの姿はありませんでした。単独で別のコースから登ってきて、横池という場所で合流することに。

最初の山行と同じ、芦屋川駅前からロックガーデン、風吹岩というルートを辿り、その先で最高峰へ向かう道からちょっと脇へそれたところにあるのが横池です。

横池

約束の時間を少し過ぎた頃、池の対岸からふらっと現れた妻鹿さんは、迷彩柄のブッシュハット、カーゴパンツの足首には脚絆(きゃはん)を巻いて、履いているのは地下足袋という変わったスタイル。若手の栗城さんが妻鹿さんをまるで珍獣扱いでネタにしつつ、一行はにぎやかに盛り上がりながら進んでいきます。

雨ヶ峠

 <「アカンわ、あぁいうのは」と松浦さんがこぼす。

「良くないですね、山であまり騒ぐのは」と私もそれに応じたが、「まぁ」と松浦さんは白くなった髪にのせたハンチング帽を被り直し「それもそやけど」と、ひと呼吸おいて言った。

「バリやっとんや、あいつ」

バリ?私にはそれが何を指すのかわからなかった。が、すぐに松浦さんから「な、アカンやろ?」と同意を求められたので、「あ、それはダメですね」と思わず答えてしまった。

「加藤文太郎気取りか知らんけど、ソロでちょっと慣れてきた連中が勘違いして、ああいう勝手なことして事故起こすねん」>

ここで言われている「バリ」とは、バリエーションの略で、地図にない道を行くことを指しているようです。

ちなみに加藤文太郎というのは、大正時代から昭和の初め頃にかけて活躍した登山家です。近代アルピニズムの黎明期、登山は上流階級のスポーツで、特別に誂えた高価な登山服に身を包んで、案内人を雇って登るのが当たり前とされていました。

そんな中、自分で工夫した手作り服に地下足袋、案内人を雇うこともせず、会社勤めの合間に休暇をつぎ込んでは困難な登山に挑んだ加藤のスタイルはまさに画期的なものでした。

加藤文太郎像

出身地の浜坂には、「加藤文太郎記念図書館」があって、著書『単独行』の元になったメモの写し、本人が撮影した山の写真、雑誌や新聞の記事、遺品の登山道具などがたくさん展示されています。

加藤文太郎記念図書館

最初のプチバリエーションは「黒岩谷西尾根」?

一行は、東おたふく山までは最初の山行と同じコースを歩いてきたのですが、東おたふく山で昼休憩を取って、食後のコーヒータイムに、リーダー格の松浦さんとベテランの槇さんが相談して「ちょっとベテランルート」を登ることになりました。

黒岩谷西尾根取り付き

最もメジャーな「七曲り」の一筋東側にある尾根で、登山地図に線は引かれていないマイナールートです。

 <岩を踏んで小さな流れを渡り、尾根筋を登る。ナイフリッジを思わせる突き立った狭い尾根道に足を縦に並べ、幹を支えにゆっくりと歩く。ロープを垂らした崖もある刺激的なルートだった。「すごーい!」と言う多聞さんもこのルートは初めてのようで、「ちょっとベテランルートです」とルートがウケた槇さんは得意気だった。>

岩場

本書を読んでから、筆者も久々に登ってみました。以前よりは踏み跡がしっかりしてきている気もするのですが、かなり切り立った部分もあり、脆い崖のようなところもあります。

岩場

尾根筋につけられたルートなので、背後を振り返ると時折展望が開けたところもあります。

展望

上部は次第に七曲りルートに近づいて行って、一軒茶屋の手前で合流します。