秋の醍醐味は、紅葉の色づきや、実りの秋の味覚だけではありません。そこには、五感を揺さぶる、もう一つの魅力的な要素が存在します。それは、秋の香りです。秋の香りといえば、キンモクセイの花が有名ですが、雑木林の中でひときわ異彩を放つ、一年に一度だけ嗅げる特別なアロマを紹介したいと思います。
雑木林に漂う甘い香りの正体は!?
秋の雑木林を歩いといると、どこからともなくジャムを煮詰めたようなカラメルのような、こくのある甘い香りが漂ってきます。近所の雑木林ではじめてこの匂いを嗅いだ時には、近くにお菓子の工房でもあるのかと思ったほどです。
その周囲に漂う濃厚な香りの正体は、実はカツラの葉! なんです。
カツラは中国、朝鮮半島や日本に分布し、北海道、本州、四国、九州の各地で見られる落葉高木です。下のように並木道にしたり、公園、河川敷で見かけることも多いかと思います。自然環境では山林などの比較的湿度の高い場所に生えている、水を好む性質の木です。
ハート型の可愛らしい葉を持ち、春には美しく光に透けるグリーンの葉を付けます。秋には黄金色に色づき、周囲の木々との美しいコントラストを生み出します。
カツラは、木目が美しく、加工しやすいことから、古くから家具や楽器、碁や将棋の盤などのほか、神棚や仏壇などに使われたりしてきました。長野県にある名刹「善光寺」の柱には多くのカツラが使われているそうです。
カツラの香りの魅力とは?
日本人と深く関わってきた樹木の一つであるカツラの名前の由来は「香出ずる」が訛ったものと言われるほどで、黄葉した葉からお香を作るため、別名をマッコウノキ(抹香の木)、オコウノキ(お香の木)という別名もあるほどです。
そんなカツラの香りは葉に含まれる、「マルトール」という物質によるものです。マルトールは、糖を焦がしたときに発生する成分でもあり、カラメルのような香りが特徴です。そして、このマルトール。葉が緑の時には含有量が少なく、10月下旬~11月上旬に黄葉、紅葉になるにつれ含有量が多くなるため、秋に雑木林を散歩して、カツラがあると落ち葉などから匂いが立ち込めるのです。この香りは、都市部のカツラでは匂わないものもあるそうで、自然の雑木林で嗅いでみるのがおすすめです。