登山活動中に食べる「行動食」にはどんなものが適しているのかを解説する2回目です。前回は実際に目撃したユニークな事例を紹介しました。今回は「必須の要素」。どんな条件のものが適しているのかを解説します。
どんな食品が行動食に適しているのか
「行動食」に何が適しているのかは、季節や計画によって少しずつ変わりますが、基本的には、次のような条件を満たしたものです。
「登山活動中に補給する必要のある栄養素を含んでいるもの」「携行性がよい(持ち歩きやすい)もの」「傷みにくい(腐ったり変質したりしない)もの」「現場で手間をかけずに口にできるもの」「消化吸収が早く、すばやくエネルギー源となるもの」「疲れていても食べやすいもの」。
今回は1つ目の「登山活動中に補給する必要のある栄養素」について考えていきます。
登山活動中は、身体を動かすため多くのカロリーを消費します。もちろんどんな傾斜のコースを登るのか、どれくらいの距離、スピードで歩くのか、背負っている荷物の重さなどにもよりますが、目安となる運動強度「METs(Metabolic Equivalents)」は、「10kgの荷物を持って山を登る」場合、8.3。荷物を持たずに平地を歩く「徒歩」の場合、3.5なので倍以上のエネルギーを消費することになります。
消費カロリー(kcal) の算出には次の式を使います。
消費カロリー=運動時間(h) x METs x 体重 ×(kg)1.05
この式に当てはめて考えてみると、例えば体重50kgの人が10kgの荷物を持って6時間行動した場合、6 × 8.3 × 50 × 1.05 = 2615 kcal。
体重75kgの人なら、6 × 8.3 × 75 x×1.05 = 3922 kcal。
仮に、体重50kgの人が40代女性だとすると、基礎代謝(動かずに消費するエネルギー量)は1250 kcal程度。それに消費カロリーをプラスした3800kcal程度が登山日の消費カロリーです。わお! ダイエット不要ですね!
例えば行動食にコンビニのおむすびを持っていくとします。具材によってカロリーもまちまちですが、何も具が入ってない塩むすびの場合は約160kcal。脂質が多くハイカロリーなのはツナマヨで、約250kcal。
消費カロリーをツナマヨおむすびに換算すると、50kgの人で10個分、75kgの人なら16個分ものカロリーが消費されるということには、びっくりする人も多いのではないでしょうか。
べつにおむすびじゃなくてもいいわけですけど、そんなにたくさんの食べ物を持っては歩けない……ですよね。
歩き続けるエネルギー源は何なのか
日帰り登山に行くのに、おむすびを10個持っていく人は見たことがありません。実は消費カロリー分をすべて登山中に補給しないと歩けないわけではないのです。もちろん、食べたいと感じる量やタイミングには個人差がありますが、行動中に食べて補うカロリー以上のエネルギーはどこから生まれてくるのでしょうか?
答えはズバリ、「体脂肪」です。
筋肉を動かすとき、瞬発力が必要な場合には、筋組織中にあるグリコーゲンが使われます。ただし、その備蓄量はごくわずかで、MAXで使うと8秒程度で枯渇するといわれています。このようなエネルギー代謝を「無酸素性エネルギー代謝」といいます。
これに対して、登山のように長時間継続して行う持久力系の運動の場合は、「有酸素系エネルギー代謝」といって、呼吸によって取り入れた酸素を使って、体内の糖や脂肪を燃焼させることによってエネルギーを産生する仕組みがメインで使われます。
しかし、糖質の備蓄はごくわずか。体脂肪を効率的に燃焼させることによって長時間動き続けることができるのです。
ということは……! 体脂肪を優先的に使えば(使うことができれば?)、糖質なんていらないのでは、と思いますよね。体脂肪、けっこう備蓄があります! できればこれをしっかり燃やしてください! ところが、体脂肪を燃焼させるためには、糖質の摂取が必須なのです。