本物の「バリ」はその先に
難易度高めの沢を遡行して、ちょっとハイテンションになってしまった波多さん。
「最高じゃないですか!バリ山行」とご満悦だったのですが……。峪を登り詰め、藪を漕いで山上の車道に出て、あとは下るだけかと思っていたら、じつはそこから先が本当の「バリ山行」だったのです。
道なき道を進み、「冗談では済まない」場所に突入していきます。「本物の危機」に直面し、やったこともない「懸垂下降」をさせられ……。
「なんとなくかみ合わない」やりとりをしながらさらにバリルートを進んでいるうちに滑落。幸いけがはなかったものの、危険な斜面で動けない状態になります。なんとか助けてもらって、命拾いをするのですが、その先も容赦のない「バリ」ルートが続きます。
そこから先は本書を読んでいただくとして、「バリ山行」が投げかけているテーマは、奥が深くてとても面白いです。受け取る人によってさまざまにとらえられると思うのですが、
<「山は遊びですよ。遊びで死んだら意味ないじゃないですか!本物の危機は山じゃないですよ。街ですよ!生活ですよ。」>
主人公はこう叫びます。たぶん、そういう人が多数派で、世間的にはそれがまともな人なんだと思います。
でも……、妻鹿さん、ちょっとぶっ飛んでるけど、とても気になるキャラクターです。会ってみたいような、みたくないような。
筆者も時々、本書で描かれているような「バリ山行」的なことをしているので、いつか藪漕ぎの途中で、妻鹿さんに会えないかな。
六甲山のような「都市山」は、ともすれば「たかが1000mに満たない低山」「クルマで登れる程度の山」と思われがちなのですが、車道からほんのちょっと入っただけで、まるきり想像もできない世界があったりします。
そこには、「本物の危機」だって、当たり前に転がっていて、ひとつ間違えると命を落とすこともあります。
そういうところが魅力でもあるのですが、もしも、本書に書かれているようなルートに行くなら、くれぐれもお気をつけて……。 ちなみに、西山谷は、「六甲山最難ルート」と言う人もいますが、もっと難易度の高いルートはいくらでもあります。しかし、事故率の高さ、そして死亡事故の確率では最多かもしれません。