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火山のリスクヘッジ! 2014年御嶽山の噴火現場から命からがら生還した登山者の証言とは

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  • 黒沢口登山道からの景色
  • 『御嶽山噴火 生還者の証言』
  • 剣ヶ峰から一ノ池方面
  • 剣ヶ峰直下のシェルター
  • 剣ヶ峰

国土の約70%が山地という日本。4つのプレートがせめぎ合う場所にある国土は、〝地震大国〟であると同時に、〝火山大国〟でもあります。富士山をはじめ、登山者に人気の高い名山にも火山が多く含まれています。登山中に、もしも噴火に遭遇したら……!?

今回は、2014年の御嶽山噴火のとき、山上部にいて噴火に巻き込まれ、九死に一生を得て生還した登山ガイドの小川さゆりさん。2年後にヤマケイ新書『御嶽山噴火 生還者の証言』を書かれました。現場で起きたこと、生還してから思ったことなどを教えていただきました。

『御嶽山噴火 生還者の証言』

噴火の現場で起きたこと

噴火に遭遇した日のことを教えてください。

「あの日は、お天気のいい土曜日で、紅葉シーズンも始まっていたので、たくさんの登山者がいました。

黒沢口登山道からの景色

私は、ふだんは中央アルプスの駒ケ根を拠点に山のガイドをしているのですが、なじみの方から頼まれて御嶽山を案内することになっていて、下見で訪れたんです。9月10日と11日に火山性地震が50回を超えたというニュースを見ていたので、現地で何か噴火に関する注意喚起の情報が書かれていないか探してみたのですが、とくに何もなかったです。

まず王滝頂上山荘について、トイレの数や売店などを確認し、剣ヶ峰を目指しました。八丁ダルミで、地獄谷方面から火山ガスの匂いがしていたのですが、とくに危機感を持つこともありませんでした。山頂付近にはたくさん人がいて、みんな楽しそうに過ごされてました。

私は、周辺の地形を確かめてから、11時42分にお鉢へ向かって歩き始めました。お鉢の稜線へ登り返している途中で、単独の男性とすれ違った直後、ドドーンという低い音がしました。

その男性が写真でも撮るために岩に登って、その岩ごと転がり落ちたのだろうかと思って振り返ると、とんでもない光景が広がっていたんです」と小川さん。

「剣ヶ峰の右奥に、積乱雲のような噴煙と、青空一面に放り出された黒い粒が舞っていたんです。瞬間的に、噴火? 嘘だろ? と思いました」(小川さん)

とっさに取った命を守る行動とは?

「立ち止まって噴煙を見ていたのは一瞬です。急激に上がってくる噴煙を見れば、理屈抜きに危険が迫っていて、1秒のロスも許されない危険な状況であることはわかりました。

空に投げ出された黒い粒は噴石で、いずれ落ちて来る。とっさに、登山道脇にあった岩陰に身を寄せました。けれど、その岩はあまりに小さかったので、5、6m先にあるもう少し大きい岩に移動して、ぴたりと張り付いて頭を守る姿勢に。

その瞬間、視界を遮る強烈な腐卵臭のするガスに巻かれたんです。吸わないように我慢したけれど、苦しくて苦しくて吸い込んでしまい、火山ガスなので吸えば吸うだけ苦しくなっていく。もうダメだ、と思った瞬間、風向きが変わったのか、ガスの臭いはしていたけれど、なんとか息が吸えるようになりました。この間1分くらいでしょうか。もっと長かったら死んでいたでしょう。隣にいた男性はガスを吸ったせいか、何度も吐いていました。」(小川さん)

ついに降り始めた噴石

「噴煙を見てから2分弱ほどでしょうか、ついに噴石が降り始めたのです。

噴石が山肌にぶつかって砕ける音、焦げ臭いにおい…… 心もとない岩に張り付いたまま、祈ることしかできませんでした。

しばらくすると、冷たく新鮮な空気が流れてきました。噴石も止んで、視界が戻りました。身を守れる岩を探すため、一ノ池方面への急斜面を駆け下りました。大きな岩の下に不自然に空いた穴を見つけて、頭を突っ込みました。けれど、大きな穴ではなかったので、頭と左足、背中の半分くらいまでしか隠れることができませんでした。

すぐに2回目の爆発が起き、噴石が雨のように降ってきて、隠れていない右足にバチバチとあたり、右足はもうダメかもしれない、と思いました。

その後小さな石の粒がザンザン降りはじめ、あっという間にしゃがんでいる腰まで埋まりました。それを手でかき集めて、岩に隠れきれていない右足と腰を覆い、噴石に備えました。生き延びるためにできることは、どんな些細なことでもやろうと思ったんです」(小川さん)

剣ヶ峰から一ノ池方面

絶体絶命からの生還

「これまで、山で死なないために経験を積み、技術や知識を身につけてきたのに、噴火に遭うとは……。滑落でもなく、雪崩でもなく、落石でもなく、登攀中の墜落でもなく、想定外の噴火で絶体絶命に追い込まれた。過去に噴火した火山に登っていながら、噴火を想定外にしていた自分の危険に対する甘さがたまらなく悔しかった。

まわりに小屋もなければ、助けてくれる人もいない。この状況がいつまで続くのかわからないけれど、噴石に当たったり、有毒ガスに巻かれない限り、水と食糧、手持ちの装備で数日間はしのげるはずだ。そんなことを思っているうちに3回目の爆発が起きました」(小川さん)

巨大な噴石が飛び交う地獄絵図

「ドッカーンというすさまじい爆発音がして、かなり近い感じ。時折ぼんやりと視界が開けると、灰色の中をかなりの数の噴石が飛び交い、明らかにサイズが大きくなっていました。それを目にして笑いがとまらなくなったんです。恐怖に飲み込まれたんだと思います。

そんな中で、じたばたしても自然には逆らえない、なるようにしかならないと思いました。

最初の噴煙を見てから約1時間後。風が吹き込み、視界が開けたのですが、そこで目に映った光景には思わず息を呑みました。見渡す限りすべて真っ黒。まったく色のない世界になっていたんです。そしてとても静かでした」(小川さん)

その後、まだ噴火が続く可能性もある中、視界が戻った機をとらえ、最短距離ながら、途中身を隠すものが何もない一ノ池を突っ切って逃げる決断をした小川さん。結果的に、自力で生還することができたのです。