筆者は穂高が好きで、わりとよく行きます。人気の山域なので、連休は避け、なるべく平日に出かけるようにしているのですが、それでも混雑によってたいへんな目に遭うことがあります。自分に原因があるのではなく、不可抗力的に予定変更を余儀なくされたときのことをご紹介しましょう。
秋晴れの穂高連峰へ
ある年の9月下旬、田んぼの稲刈りの手伝いで飛騨地方へ行ったついでに、穂高へ行くことにしました。
暗いうちに出発し、平湯温泉までクルマで送ってもらって、始発の路線バスに乗り換えて上高地に着いたのが午前7時頃。
ちょうど連休の最終日で、小梨平のキャンプ場は色とりどりのテントがたくさん。そして、次々と下山してくる人たちとすれ違いながら歩きはじめました。
連休なので、この山域に入ってる山仲間たちも多くて、つぎつぎと下ってくる知り合いとすれ違うので、その都度一言二言しゃべっているうちにけっこう時間がかかってしまいました。この日は、北穂高山荘まで行くつもりなのですが、なかなか進まない……
多少焦りながら横尾に着いたのが午前9時過ぎ。この時点で、昼までに涸沢に着けなかったら、北穂はあきらめようと思ってました。
幸い、その先はもう知人に会うこともなく、順調に行程を進めることができて、涸沢小屋に着いたのが午前11時50分。自分で決めたラインのギリギリですが、一応クリアできたので進むことにしました。
ちょっとペースを上げすぎたせいか、後半ややバテ気味になりつつも、午後2:30分に北穂高山頂着。
小屋は山頂の直下なので、午後3時にはチェックインも済ませて、小屋前で一人お疲れビール。翌朝は午前5時頃まで寝ていて、起き抜けに小屋前からご来光を見て、朝ごはんを食べてから、午前6時過ぎに出発。大キレットの向こう側には槍の鋭鋒が姿を現してました。
この日の行動予定は、北穂高岳から南下し、白出コルを越えて奥穂高岳、吊尾根から前穂高岳、そして上高地へ下山するというもの。コースタイムは約8時間、順調に行けば、午後3時までに下山できます。
晴れてはいるものの、時折ガスが流れるため、ブロッケンが現れて、しばし見とれていました。
想定外の危険要素が接近してくる!
北穂から涸沢岳にかけては、意外と難所が続くパート。この付近では北穂と南岳の間の「大キレット」が難所として知られていますが、ルートファインディングなども考慮するとこちらの方が難しい部分もあります。
アップダウンが激しく、岩場を登ったり下ったり。鎖が設置されているところもたくさんあります。
ガスがかかったり晴れたりを繰り返しているのですが、遠くの方で、落石の音が何度も起きていました。しかも、どんどん近づいてくる感じ。よく見えないのだけど、いったい何が起きている?
かなり人数の多いパーティが向こうからやってくるようです。その人達が、歩き方が下手なのかなんなのか、やたらと落石を起こしているもよう。ヤバい……
コルに降りる手前で見ていたのですが、彼らの下に位置するのは、かなりリスクが高い。あれだけ雑に歩く人たちだから、狭いところですれ違うのもヤバい。周囲を見回して、なんとか安全にすれ違えそうな場所を探して、そこで待機することに。
9月も下旬の3000m、じっとしているとかなり寒いのですが、なんとかみつけた安全そうな場所で待機するしかありません。震えながら、小一時間ほど待ちました。かなり大人数のパーティで、どうやら海外からのツアー客のようでした。
偶然見つけた安全地帯で、トラブルもなくすれ違うことができて、ほっと一息。陽気というかのんきというか、明るく挨拶もしてくださったのですが、こちらはけっこう表情が引きつってたかも……。
なんとか無事に白出コルにある穂高岳山荘に到着したのですが、想定より1時間押し。時間的には、上高地まで行けなくはないのですが、人気コースだし、また混雑に遭うかもと思うと気が重い。連休明けなのにこんなに人が多いとは……
とりあえず小屋でコーヒーを飲みながら、地図を広げてしばし一人で作戦会議です。気がせいてはろくなことがない。吊尾根だって、けっして気を抜いて歩けるコースではありません。マイナーコースで、あまり通る人のいない、白出沢を下ることにしました。
上部はガラガラの岩が累積する急な谷ですが、下半分は樹林帯。コースタイム約6時間で新穂高温泉へ下れます。このコースは、過去に何度か通ったことがあるので、土地勘はあります。無事に下山することができました。