挑戦する? 眺めて楽しむ? 知る喜びにひたる?
なかでも「山の本が答える、人生相談所」が秀逸。
人生におけるいろいろなお悩みに、古今東西の山の本から、一節を引いて答えるというもので、お答えもさることながら、「こんな本があるんだ!」というのを知ることができた点もよかったです。
たとえば、幸田文さんの『木』を引き合いに、成果主義に偏っていないかという仕事の悩みに答えているのですが、全国の森を巡ってさまざまな木のことを書いたこの本のことを始めて知り、読んでみたくなりました。
パタゴニア、スイスアルプス、アパラチア、ヒマラヤ……
多くの人が憧れる世界の名峰の数々を、「リゾート」や「レジャー」の対象として、その美しさや魅力を紹介しているページがある一方、山岳特有の険しい地形によってアクセス問題や発展から取り残されることによる貧困の問題が発生したり、紛争地ではゲリラ戦の舞台となったりするという負の一面も取り上げられています。
山小屋の管理人、登山雑誌の編集者、山岳救助隊、山仕事のコーディネーターなど、「山を仕事にしている」人たちの紹介も面白い章でした。単なるガイドブックや旅行雑誌とは全く違うアプローチがある点が『TRANSIT』らしさなのだろうと思います。
【データ】
『TRANSIT 56号』(2022年6月刊/euphoria factory)
https://transit.ne.jp/2022/06/001629.html
■出版元 euphoria factory
自社で企画・発行するトラベル文化誌<TRANSIT>をはじめとする雑誌・書籍などの出版物制作と、企業ニーズに応じたコミュニケーションツール制作の、2つの事業を手がけている。
■評者 根岸真理
1961年、神戸市須磨区生まれ。1歳前に親に連れられて六甲登山デビュー。アルパイン歴30年の自称アウトドアライター。『六甲山を歩こう!』(神戸新聞総合出版)ほか六甲山関連本を4冊上梓。『神戸新聞』のおでかけ情報欄「青空主義」の第三月曜日版で六甲山情報を執筆中。
http://653daigaku.com/information/14176/