最強ハンターの意外と残念過ぎる最期
水中で暮らす「ミズカマキリ」という昆虫もいるのですが、彼らはカマキリではなく、カメムシの仲間。
ふつうのカマキリは陸上で暮らしていますが、なぜかたまに、水に飛び込む姿が見られます。
擬態のダンスとは異なり、まるで酔っぱらいがフラフラ歩いているみたいな感じで水辺に近づいていき、〝飛び込み自殺〟をしてしまうのです。これは、カマキリに寄生しているハリガネムシが、宿主を操っているのだとか。
「箕面公園でも、川のそばでよくカマキリを見かけますが、水辺にいるのはだいたい寄生されているようです」と中峰館長。
ハリガネムシは、水中で交尾して卵を産みます。孵化した幼虫は水生昆虫に食べられて、その体内でシストという硬い殻でおおわれた状態で休眠。その昆虫が羽化して陸上へ出て、カマキリなどに食べられると、休眠から覚めて寄生生活を開始します。体内で栄養を横取りするだけでなく、成熟したら水中に戻って繁殖行動をするために、宿主を操って水に飛び込ませるのだとか。昆虫界最強のハンターを操るとは、ハリガネムシ、おそるべし。
たまに路上などで踏みつぶされているカマキリとハリガネムシの姿を見ることがありますが、宿主の操り方が下手だったのか、カマキリ君が千鳥足になり過ぎたのか。昆虫の世界もなかなか奥が深くて神秘的です……。
【取材協力】
■中峰 空(なかみね ひろし)
箕面公園昆虫館館長。1971年奈良県吉野郡生まれ。博士(農学)。カマキリモドキの分類が専門。
■箕面公園昆虫館