どじょうの命の最後の音を聞く
いつまでもどじょうをこのままにしておくのは、よくないんじゃないでしょうか。
覚悟を決めて、どじょうをボウルに移します。
上からザルで蓋をして、網目から大量の料理酒を垂らします。本当は日本酒のほうが、おいしい下味がつくそうなのですが、月山は私が飲みたいので、料理酒にしました。
お酒を垂らした途端に、どじょうがばちばちっと跳ねます。これが、命の最後の音かあ。
どじょうのレシピには「お酒に漬けると酔っ払います」と可愛く書いてあるのですが、お酒に漬けると5分くらいでどじょうは死にます。生き物はお酒の中では生きていけないんですね(何かを言った風で何も言っていない)。
徐々に小さく、感覚が空いていく、ばちばちっという音を、5分くらい聞いていました。私も日本酒を飲みながら(おいしいから飲んでいるだけ)。
じつは私、どじょうを食べるのは初めて。そんな初心者におすすめなのが割下で煮込んで卵とじにする柳川鍋です。上級者(?)になると、どじょう汁もおいしいそうですね。今日は蒲焼きにします(人のアドバイスを聞かない)。
蒲焼きなら、とりあえず、うちわでも作るか……。
両面白紙のうちわに、しゃちょーが楽しそうにどじょうの絵を描き始めました。弔いです(たぶん)。
私もしゃちょ-の絵を真似してどじょうの絵を描きました。
このうちわで蒲焼きを仰ごうと思います。はー……。
では、炭に火を起こしていきますよ。先ほどつくった特製のうちわで火の加減を調整して、いい感じになったら網を敷きます。これで準備はOKです。
一般的な蒲焼は醤油にみりんと砂糖と酒を混ぜ合わせたタレで照り焼きにしますが、今日は矢田醤油店の「暗黒ノ醤油」(中は「甘露」という商品名の刺身醤油)をハケで塗って、炭火で焼いていきます。
暗黒ノ醤油はそのままでも、甘くて濃厚なのです。
どじょうが息絶えると、ようやくしゃちょーがこちらへ近づいてきました。
私がどじょうを締めているのを見て、これがいつか鹿を捌きたい人の背中かと思っていたそうです。
ふたりで炭火の網の上にどじょうを並べていきます。小さくて細いので、時々網の隙間から逃げてしまいそうになります。
焼いた途端、焼き魚のいい匂いがして、さっきまで切なかったのに、急に「おいしそう!」と思いました。人間って不思議です。
同じく初めてどじょうを食べるしゃちょーは、火の通りが不安らしく、私が「もういいんじゃない?」と食べようとすると、「ちょっと待って!!」と言って、めちゃくちゃ焼いていました。
さっき作ったうちわでパタパタ仰いでみます。
何回かひっくり返して、醤油を塗って焼いて。ようやく焼き加減に納得したしゃちょーのどじょうを食べてみると……炭だ! 炭の味がする!
炭になりかけてるどじょうを慌てて救出。
ちょうどよさそうな焼き加減のどじょうを落ち着いて食べてみると、おお、弾力があります! 暗黒ノ醤油も、香ばしくておいしい~! しゃちょーも「栄養いっぱいの味だ!」とおいしそうに食べています。
どじょう自体は淡白な味わいなので、蒲焼きにしてよかったかもしれません。
やっぱりこの弾力があって食感が楽しいところが、どじょうの魅力なのかも。
しかしひとつひとつは小さいのに、命を食べてる感じがすごくあって、お腹より先に胸がいっぱいになります。
どじょうに合わせて月山を飲むと、またおいしいですね。地域のものをその場で飲み食いできるのはすごく贅沢だなあと思いました。島根の味がします。
どじょう、一日ありがとう!
■取材協力:安来市観光協会
【プロフィール】
姫乃たま
1993年、東京都生まれ。10年間の地下アイドル活動を経て、2019年にメジャーデビュー。同年4月に地下アイドルの看板を下ろし、現在は文筆業を中心にラジオ出演や音楽活動をしている。
2015年、現役地下アイドルとして地下アイドルの生態をまとめた『潜行~地下アイドルの人に言えない生活』(サイゾー)を出版。著書に『職業としての地下アイドル』(朝日新聞出版)『永遠なるものたち』(晶文社)など。音楽活動では作詞と歌唱を手がけており、主な音楽作品に『パノラマ街道まっしぐら』『僕とジョルジュ』などがある。