日本に約50種がいるというヘビ。奄美群島から沖縄にかけての亜熱帯地域には、そのうちの40種ほどが生息しています。
なかでも被害が多く、最も注意したい毒ヘビがハブです。マムシに近い仲間ですが、体の大きさ、毒牙の長さ、毒量の多さはこちらのほうが上。
現地の人々はその恐ろしさを十分に理解し、日ごろから気を付けているようですが、旅行で訪れた場合はどんな点に注意すべきでしょうか。
野外における危険生物への対策研究とその指導を専門とする、一般社団法人セルズ環境教育デザイン研究所の代表理事所長・西海太介(にしうみだいすけ)さんにお話をお聞きしました。
ハブとマムシは同じクサリヘビ科
「基本的な話からしますと、一般的に、日本で出会うことが多いヘビには3つのグループがあります」と西海さん。
3つのグループとは、「ナミヘビ科」「クサリヘビ科」「コブラ科」。
「ナミヘビ科のヘビはアオダイショウやシマヘビなどです。無毒のヘビが多いですが、ヤマカガシのように毒をもつものも一部含みます。コブラ科はグループ全体で毒をもち、ウミヘビのほか、ハイやヒャンなど陸生のヘビもいます」(西海さん)
そして、ハブとマムシはクサリヘビ科に分類されます。
「クサリヘビ科はグループ全体が毒ヘビで、海外の有名どころではガラガラヘビがこの科に含まれます。ハブは南西諸島に生息し、北海道~九州には生息していません」(西海さん)
マムシとの違いを見ながら、ハブがどんなヘビなのか教えてもらいました。

マムシの3~4倍もの大きさにもなるハブ
ハブの仲間にはいくつかの種類があり、沖縄本島や奄美群島にいる最も大きなハブは「ホンハブ」と呼ばれています。黄色や茶色、白の地に黒い網模様の体で、首が細く、頭が三角形に見えるのが特徴。いわゆる沖縄本島旅行で気を付けたいのはこのハブで、一般的にハブというとこの種を指します。
「マムシは大きくても体長50cm程度ですが、見かける多くのホンハブは130~150cm。大きいものでは2m以上の記録があります」(西海さん)
鳥やカエルなどの生き物を食べますが、とくにネズミ類をよく食べることが知られています。
「山や森のほか、農地や川沿いなどの人里近い環境にも生息し、基本的に夜行性です。日中は石垣の隙間や茂みなどに隠れていて、夜に出てきます」(西海さん)
ホンハブのほかに、マムシに似た体形のヒメハブ、八重山列島に生息するサキシマハブなどの比較的小型のハブのほか、台湾から持ち込まれたタイワンハブという外来のハブもいます。

ハブがマムシよりも危険なのはなぜ?
ハブの毒はマムシと同じく、いわゆる出血毒に含まれる毒で、さまざまな成分がミックスされてつくられています。毒性はマムシほど強くはないものの、マムシ以上の痛みや腫れを引き起こすといいます。それはなぜでしょうか。
「マムシに比べるとハブのほうが体が大きく、毒の量が違うからです。一度の咬みつきで入る毒量は、マムシだと20~30mg程度とされますが、ハブはその10倍ほどあります。注入される毒が多いため、マムシより症状が重くなります」(西海さん)
この毒により、強い痛みや腫れが引き起こされ、患部が壊死し、後遺症が出る可能性もある恐ろしいもの。
また、ホンハブは大きいので攻撃範囲も異なります。
「ヘビは体をS字に曲げ、そのばねの力を生かして攻撃します。マムシは太くて短い体形で、攻撃範囲は全長の半分ぐらい。長さにして20~30cm程度なので、本当に近くにいないと咬まれません。一方で、ハブは太さの割に体が長く、攻撃範囲は全長の3分の2ぐらい。180cmのハブだと1.2m程度先まで攻撃が届くことになります」(西海さん)
また、その攻撃はとても素早く一瞬で、沖縄では「ハブに打たれる」と表現するそう。
「毒牙の長さも、マムシが4mm程度なのに対しハブは15mmほどで、咬まれたときに深く毒を入れられてしまいます」(西海さん)
それでも、幸いなことに近年は死者が出ていません。
「マムシで亡くなる人は毎年いますが、ハブでは2000年以降いません。それ以前も年に1人いるかいないかで、1970年頃と比較するとかなり減少しました」(西海さん)
その理由は血清、治療技術の進歩、そして地域性などにあると考えられるそうです。
「南西諸島では昔から毒蛇と隣り合わせで暮らしているので、マムシが少ない地域でマムシに咬まれた場合よりも、医師が慣れていたり、病院側の体制も整っていたりする傾向はあるでしょう」(西海さん)
ハブに咬まれると迅速な処置が必要。咬まれた人も手当てをする人も、どう行動すればよいかわかっているからこそ、この結果につながっているのでしょう。
