愚直に動く「ロバ」という動物の生き方
ただ、本書の最大の面白さは、やはりロバという動物の存在でしょう。著者がいうには、ロバという動物は性格は穏やかで、一見、地味で弱そうに見えるけど、どんなに重い荷物を背負っても文句を言わずに歩き続ける強さがあります。そしてその一方で、隙あらば道草を食べようとしたり、メスを見たら我を忘れて突進したり、真夜中に突然、壊れたシーソーのような大音量の鳴き声を上げたりと、扱いに困ることもしばしばあったのだとか。
嫌なことがあればテコでも動かないとか、人に媚びないとか、普段は静かなのに、悲しいことや嬉しいことがあると声を枯らして全力で鳴くといった、愚直に働き生きるロバと一緒に旅をするうちに、著者はそんなロバのようなシンプルな生き方に凄く憧れていきます。これは、個人的にも半年間の旅をしたことがあるので非常に共感できます。
長い放浪の旅をしていると、人生にとって必要なものはそんなに多くないと感じるようになり、日常生活で抱えている悩みや苦労といったものが小さなものに思えてくる瞬間がある気がします。ロバという動物と徒歩で旅したことでそういった気づきがあるというのが、本書ならでは魅力なのではないでしょうか。
2023年現在、著者は日本に帰国後、「クサツネ(草常)」と名付けたロバと、今度は日本中を歩いて旅しているようなので、 日本でロバと旅をすると一体どんなことが起きるのかを次の作品として書いてもらいたいなと思います。
【データ】
■高田晃太郎 著『ロバのスーコと旅をする』
(2023年7月刊/河出書房新社)
https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309031200/
高田晃太郎
1989年、京都府生まれ。新聞の記者を経て、スペイン巡礼で歩く旅の自由さに触れる。モロッコの遊牧民にロバの扱い方を教わった後は、国内外をロバと共に放浪。2023年夏からロバと共に日本一周を始めた。
■評者 川田正和(かわた・まさかず)
1967年、神奈川県生まれ。香川県育ち。明治大学文学部卒。大学を卒業後、出版社に就職するもほどなくして退社。アルバイトでお金を貯めては世界各国への長期の旅を繰り返すうちに、旅行専門の本屋をはじめようと決意。書店員を経験した後、2007年、西荻窪に「旅の本屋のまど」をオープン。日本で唯一の旅行専門の本屋として国内外から注目されている。
http://www.nomad-books.co.jp/