長大な歴史を有する屋久杉で知られる屋久島。早朝5時半から始まった10時間にも及ぶ縄文杉への登山も、後半戦に差し掛かろうとしています。中編では、さまざまな種類の屋久杉を立て続けに見た頃には、疲れもかなり出ていました。腹ごしらえも終わり、ようやく縄文杉が目の前へと迫ります。
ふと顔を上げるとそこには……
午前10時頃。周りにはどんどん人が増え、いよいよ目的地が近づいていることがわかります。足元を気にしながら歩いていましたが、ふと顔を上げると遠くにもう縄文杉が見えます。一歩近づくごとに、大木がさらに大きくなっていくのがわかります。
それまで舗装されていない、木の根っこが剥き出しの道を歩いてきましたが、縄文杉が近づくと木組の階段が現れ、歩きやすくなりました。階段を登ると、そこはウッドデッキになっており、より近くで縄文杉を見ることができます。
階段を登り切ると、目の前に堂々とした佇まいの縄文杉があります。まわりもたくさんの木が取り囲んでいましたが、縄文杉はひときわ存在感を放っており、どれが縄文杉か説明されなくても検討がつくほどでした。
友人たちと3人でそれを眺め、「おー」と声を漏らしたあと、しばらく黙りました。
「正直なことを、言ってもいいかな」
友人が口を開きました。
「樹齢が1000年を越した屋久杉を序盤で見たあたりから、もうあんまり驚かなくなってきてる」
筆者も大体同じ感想でした。トレッキングが始まったばかりの時に、道中の屋久杉を指差して、ガイドさんに「あれももう樹齢1000年を越してますね」と言われ、そんなものがそこらにほいほい生えているのか、と思いました。今更樹齢が2000年だと言われても、もう驚きません。
そもそも、縄文杉の推定樹齢は2000~7000年などといわれており、範囲が広すぎるしもう少し特定してくれと思っていました。どちらにせよ今生きている人間の誰も生まれていない時代からいる時点で、どれだけ昔といわれてもその凄さを想像しようがありません。
「とりあえずセルフィーだね」と言って、筆者たちは約7000歳の木と写真を撮ったのでした。
映画の世界とそっくり! あの場面を思い出す場所?
さて、これからここまで来た道を引き返すのか、と思いながら縄文杉をあとにした筆者たち。そこからまた4時間ほど歩きました。一度通った道のため、トロッコ道がどれほど長く続くのかもわかっています。ひたすらしりとりをしたり、脈絡もなく歌い出したり、急に黙ったりしながら辛抱強く歩きました。
そして14時頃。ついにガイドさんが「一度ここで休憩にしましょう」と言ってくれました。
ガイドさんについていくと、来た道を引き返している途中だった道から逸れていきます。どこへ向かうのかと思ったら、5分ほど歩いた先に突然清流が現れました。エメラルドグリーンの川が広がる、河原に出たのです。
その日は快晴だったため。川面を太陽が気持ち良く照らし、今まで見た川の中で最も透き通っている水でした。実は縄文杉を目指しながら、時々川の流れる音が聞こえていましたが、それはここからだったのかとも密かに思いました。
『もののけ姫』に登場する森のモデルとなったとされる屋久杉の森。たしかに見渡すと巨木があちらこちらに立っており、生物や植物が全て巨大な太古の森・もののけの森を思い浮かべます。
しかし、この河原は「なんとなく似ている」を超えて、完全に主人公2人が初めて邂逅する場面にそっくりでした。大きな岩がごろごろとそこらじゅうにあり、両側に雄大な緑が広がります。今にも森の奥から大きな山犬が登場しそうでした。
筆者たちにとっては、ここが最も興奮したスポットでした。都会に住んでいると、こんなに澄んだ川の音は聞けません。
それに、最初に屋久島へ行こうと決めた目的は、『もののけ姫』に登場するもののけの森のモデルとなった場所だから、というものでした。今まで何度も見返した『もののけ姫』の情景が目の前に広がり、当初の目的を無事達成できたことで、この大変なトレッキングもしてよかったと思えたのでした。
再びあの難関! 渡らないと帰れない!
映画のワンシーンのような風景を目の目にして心穏やかになったところで、再出発です。再び来た道を戻ることになるため、当然行きの道でも渡った、あの恐怖の橋が登場します。
あんなに清々しい気持ちで清流をあとにしたのに、橋のことをすっかり忘れていたらしい友人たちは行きと同じく絶望を顔に浮かべています。筆者は、行きと違って日も昇って明るいからと、動画を撮りながら渡りました。
足場はトロッコも通れるよう鉄でできているため頑丈ですが、手すりがなく高度があるため、風が吹くと友人たちは縮こまりながら「風吹かないで!」と、自然に向かってキレていました。
ついには橋の真ん中あたりでしゃがみこんでしまい、「無理です! 棄権します!」と、意味不明なことを言い出す始末(スポーツ大会じゃないんだから……)。ここに置いていくわけにも行かず、「早く帰ってホテルでうまい酒を飲もう!」など、あの手この手で励まし、なんとか渡らせました。