ある地域にもともといなかった生物を、外来生物(または外来種)といいます。食料やペットとして輸入されたり、荷物に紛れて運ばれたりなど、人間の活動によってほかの地域から持ち込まれた生き物です。
そうした外来生物のなかには、生態系に影響を与えたり、農業に被害を及ぼしたり、刺したり咬んだりして人に害をなすものがいます。
その脅威や被害は、折にふれてニュースでも報道されるので、見聞きしたことのある人も多いでしょう。
外来生物のなかでもとくに危険な毒をもつ種について、野外における危険生物対策の研究や指導を専門に行う、一般社団法人セルズ環境教育デザイン研究所の代表理事所長、西海太介(にしうみだいすけ)さんにお話をお聞きしました。
全国に広がってしまったセアカゴケグモ
外来生物の状態には「侵入」と「定着」の2つがあるといいます。
「『侵入』は入ってきたのを確認しているが、水際対策で定着を防いでいる状態。そして『定着』は住み着いて繁殖している状態です。セアカゴケグモはすでに定着しています」と西海さん。
もとはオーストラリアに生息するとされる毒グモで、体長は4~10mm程度。1995年に日本で初めて定着が確認され、現在は全国に広がっています。
「東日本大震災の復興用に資材が運ばれた際に、東北地方まで一気に分布が拡大したといわれています。ただし、もともと温かいところのクモなので、東北地方や関東地方には少ないです」(西海さん)。
東日本よりも西日本のほうが多く、なかでも愛知県や三重県など、特に目立つ地域もあるとのこと。
「クルマにくっついて移動しているとされ、私たちがクルマで行く場所に多くいます。高速道路のサービスエリアやパーキングエリア、一般道の駐車場などで多く見られる傾向があります」(西海さん)
植え込みの中や自動販売機、ブロック、カラーコーンの下など、狭い隙間に巣を張って暮らし、黒い体に赤い模様をもつメスのみが毒をもっています。
「性格はかなり臆病で、向こうから近寄ってきて咬むことはありません。事故が起きるのは、たとえばプランターの持ち手の裏にいて、気づかずに手を入れたときなどです」(西海さん)
毒はタンパク質性の神経毒で、咬まれると徐々に痛みが増してくる傾向にあるといいます。
「毒としては決して弱くなく、抗毒素が作られているほどです。咬まれたら絞りながら水洗いし、抗ヒスタミン軟膏を塗って、腫れがひどければ冷やしましょう。その後、近くの病院に行ってください」(西海さん)
吐き気や寒気などの全身症状が出ることもありますが、ほとんどの場合は回復します。必要以上に怖がることはありませんが、強い毒をもっているのは事実ですので、もし咬まれたら病院へ行くようにしてください。
刺されると火のように痛いヒアリ
「日本でまだ定着が確認されておらず、貿易港などの限られた場所で見つかっては駆除される、を繰り返しているのがヒアリです」(西海さん)
ヒアリは体長2.5~6mmの南米原産のアリ。つやのある茶色い体で腹部に毒針をもつ、攻撃性が高い種です。コンテナなどとともに移動して世界中に広がり、2017年からは日本でも確認されるようになりました。
「侵入は日常的に起こっています。現在は遭遇する可能性があるとすれば港の周辺などに限られます。一般の人があまり立ち入ることのないエリアのはずです。万が一見つけたら、すぐに自治体に報告し、国内への定着を防ぐ必要があります」(西海さん)
ヒアリがもつ毒は、動物に多いタンパク毒ではなく、植物や一部の微生物にみられるアルカロイド系の毒です。
「フグやイモリなど、アルカロイド系の毒をもつ動物もいますが、エサから摂取して体にためて毒を作るのが基本です。そういう生物はエサがない場所に行けば毒性が失われる傾向にありますが、ヒアリは自己合成ができるので、エサに左右されません」(西海さん)
これはかなり特殊でやっかいな性質なのだそうです。
「刺されたときの応急処置は、基本的にハチと同じです。水洗いして抗ヒスタミン軟膏を塗り、全身症状の有無を経過観察してください。その後病院へ行きましょう。ヒアリに刺された時点で、国内では大事件です」(西海さん)