やっと見つけた墨汁のような黒湯
ガッカリしながら、大岩の裏側に回ってみる。するとその巨大な岩の下に、人ひとりがなんとか入れるくらいの隙間に湯がたまっているのを発見。手を入れてみると、40度くらいの気持ちのいい湯温である。
やっと見つけた! これが今回探していた野湯、「奥日影の湯」だ!
湯はわずかに白く濁って澄んでいるが、しばらく人が来てないようで落ち葉や枯れ枝などがたくさん浮いていて、藻も多く生えている。
ワクワクしながら枯葉や小枝、生えている藻を取り除く。そしてさらに少し浅い湯船の底から砂や石を掻き出して、半身浴ができるくらいにまで掘ってみた。すると湯はみるみるうちに、まるで墨汁のような色へと変わった。
野湯好きとしては、黒い湯も大歓迎である。喜び勇んで湯船に浸かった。
とても心地よい湯温だったので、思わず鼻歌を唄いたくなる。しかし次の瞬間「アチッ!」と声が出た。湯船のあちこちから熱い湯が湧き出しているのである。
真っ黒な湯を撹拌させながら温度が均一になるように調節。すっかり適温になったので、素晴らしい紅葉に包まれた渓谷の野湯で鼻歌を唄い続けた。
※一部に私有地を含む場合がありますので、野湯を訪れる際は事前に許可を取ることを推奨します。
【データ】
■奥日影の湯
長野県高山村万座峠
須坂駅から七味温泉までクルマで約30分
【プロフィール】
瀬戸圭祐(せと・けいすけ)
アウトドアアドバイザー、野湯マニア。NPO法人・自転車活用推進研究会理事。自動車メーカー勤務の傍ら、自転車・アウトドア関連の連載、講座などを数多く行っている。著書に、全国各地の野湯を訪ね歩いた冒険譚『命知らずの湯』(三才ブックス)、『快適自転車ライフ宣言』(三栄)、『雪上ハイキングスノーシューの楽しみ方』(JTBパブリッシング)などがある。2023年9月現在、足を運んだ野湯はトータルで約100湯。
※著者の野湯の講演会、開催決定!