ソトラバ

今どきまっとうなアウトドア本 vol.10『穂高を愛して二十年』(ヤマケイ文庫)

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山小屋を建てることの意義

要所に山小屋があるおかげで、登山者は気軽に山へ行くことができます。

それは、単にテントを持たなくていいとか、水や食料が買えるので荷物を減らせるというだけでなく、想定外の何かがあったときに助けを求めたり、逃げ込めたりする安心感が得られることが大きな要素です。

北穂への道

著者の小山義治さんが、北穂の山頂に山小屋を建てようとしたとき、当時の山岳界の中堅どころから、

「穂高登山を容易にし堕落化させる不逞の輩」と非難を受けたとか。

北穂高岳への登山ルートは、今でも難易度が高く、初心者が気軽に登れる場所ではありません。

この小屋ができる以前は、登山道も今ほど整備されておらず、一握りの熟練者にしか登れない場所でした。そこへ小屋を建てると、素人でも登れるようになるではないか、と。

じつは、これは難しい問題です。

どこの山でも、誰でも気軽に登れるようになればいいとは思えません。それなりの訓練を積んで、準備を重ねて、ようやく挑戦できる山もあっていいと思うのです。

しかし、筆者は、想像を絶する苦難を乗り越えて、険しい絶頂に、自分の小屋を建てたのです。そのプロセスが本書には詳しく書かれています。重機のない時代に、重い建材を人力のみで険しい山頂まで運び上げる……。

最も大きなパーツの「梁」は、長さ十八尺(約5.5m)、重さ三十五貫(約131㎏)もある一本材。傾斜が強くないところは、三人がかりで運んだものの、涸沢から上は傾斜が強すぎて、複数人で担ぐのは却って危険。最終的には、背負子を使って一人の力で担ぎ上げたそうですが、急峻な現地の地形を知っている者としては、この部分の描写はまさに手に汗握るもの。またしても一気に引き込まれてしまいました。

北穂から南側の眺望

 

【データ】

「穂高を愛して二十年」新旧書影

小山 義治 著 『穂高を愛して二十年』(ヤマケイ文庫) 2022年3月9日 山と溪谷社

https://www.yamakei.co.jp/products/2821049370.html

                       

小山 義治(こやま・よしはる)

1919年、東京都恩方村(現・八王子市)生まれ。穂高の山々に魅せられ1945年信州に移住。北穂高岳に山小屋の建設を決意し、自らも資材を担ぎ上げ、1948年に北穂高小屋を開業。また滝谷の岩場に多くのルートを開拓し、仲間とともに積雪期の北アルプス縦走や利尻岳南陵登攀などを行なった。生涯にわたり、山、音楽、絵画を愛し、滝谷など岩稜を対象とした山岳画を数多く描いた。2007年没(享年87)。

                       

■評者 根岸真理

1961年、神戸市須磨区生まれ。1歳前に親に連れられて六甲登山デビュー。アルパイン歴30年の自称アウトドアライター。『六甲山を歩こう!』(神戸新聞総合出版)ほか六甲山関連本を4冊上梓。『神戸新聞』のおでかけ情報欄「青空主義」欄、第三月曜日枠で六甲山情報を執筆中。

http://653daigaku.com/information/14176/

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