野趣満点! 滝の飛沫を浴びながら入湯
この「滝の湯」から称明滝までは道はない。しかし岩と土の上を慎重に歩いてゆくと、すぐに滝壺のところに着いた。
真下から見上げると、落差60mの称明滝の迫力が覆いかぶさってきて、思わず圧倒されてしまう。今回の一番目当ての野湯は、この滝壺なのである。
しかし湧き出している温泉の量に対して、滝の沢水の量が圧倒的に多いので、20cmほどの深さの滝壺の温度は30度以下になっていた。滝からの冷たい飛沫がシャワーのように降り注ぐ中での入湯は快適とはいえないが、マイナスイオンは満点である。
滝の岩肌をよく観察してみると、白く変色した岩盤の隙間から湯が湧き出しているのを発見した。
その壁にへばりついて流れ落ちる湯を、身体をダムにして入湯してみる。少し暖まることができるが、冷たい飛沫を浴びながらではそれも限界があった。
岸壁を見上げると、滝壺の右上の絶壁の数メートル上部にテラスのような場所があり、そこに湯がたまっているのを見つけた。
よじ登って行ってみると、そこには岩肌から湧き出す熱湯が注がれ滝の水とブレンドされて適温になった、一人でやっとお尻が浸かれる程度の小さな湯船があった。
底の石を掘り出して何とか入湯する。底や壁からも熱湯が湧き出ており思わず下半身はアチっとなるが、周りからの冷たい水飛沫を浴びて上半身はひんやりする。のんびりはできないが、見上げると60m上から豪快に水が落ちてくる野趣満点の貴重な湯浴みを経験することができた。
最高の景色と力強い硫黄泉、そしてマイナスイオン満点の滝の野湯が満喫できる、エキセントリックな世界であった。
※一部に私有地を含む場合がありますので、野湯を訪れる際は事前に許可を取ることを推奨します。
【データ】
■称名滝の湯
新潟県妙高市関山
妙高高原駅から燕温泉の駐車場までクルマで約15分
【プロフィール】
瀬戸圭祐(せと・けいすけ)
アウトドアアドバイザー、野湯マニア。NPO法人・自転車活用推進研究会理事。自動車メーカー勤務の傍ら、自転車・アウトドア関連の連載、講座などを数多く行っている。著書に、全国各地の野湯を訪ね歩いた冒険譚『命知らずの湯』(三才ブックス)、『快適自転車ライフ宣言』(三栄)、『雪上ハイキングスノーシューの楽しみ方』(JTBパブリッシング)などがある。2023年9月現在、足を運んだ野湯はトータルで約100湯。
※著者の野湯の講演会、開催決定!
開催日:2023年11月19日(日)