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たどり着けるかは運次第!? 究極の秘湯・野湯探検記【vol.10】「日本の温泉ベスト10」にも選出された野湯! 式根島の「地鉈温泉」「足付温泉」/東京都

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  • 地鉈温泉
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「野湯(のゆ)」とは、自然の中で自噴していて、それを管理する商業施設が存在しない温泉のこと。「日本国内にそんな所が存在するのか?」と思う人もいるかと思うが、じつは人知れず湧出している野湯は全国各地にある。この連載では、野湯マニアの著者が入湯した、手つかずの大自然の中で格別の満足感を味わえる野湯を紹介してゆきたい。

今回は前回に引き続き、東京都にある式根島の温泉を訪れる。

「日本の温泉ベスト10」に選出された絶景の湯

世界最大手の旅行ガイドブック『ロンリープラネット』で「日本の温泉ベスト10」に選出された唯一の野湯が、なんと東京都にある。それが、前回紹介した東京都の野湯天国、式根島にある「地鉈(じなた)温泉」だ。

日本の温泉評論家・野口冬人が選定した「露天風呂番付」で、東の張出横綱に番付けされている野湯でもある。

この誰もが認める素晴らしい温泉を求めて、今回は再び式根島へと向かった。

野伏港から島の南側に向かい、道路終点の駐車場から、200段ほどある急峻な階段を降りてゆく。海岸の断崖を鉈(なた)で切り裂いたような鋭く深いV字谷。断崖に挟まれた谷底の細い道の先に見え隠れする海に向かって歩いて行くのは、何だかドキドキする。

谷底まで行くと、絶壁直下の海岸の岩場にある、いくつかの大きな湯だまりを発見。この谷底と海が出会うところに湧いているのが、地鉈温泉だ。

荒々しい岩礁地帯の中で、目の前には入り江の先に太平洋の大海原が広がり、後ろを振り返ると崖が背後に迫る。

極めてダイナミックな景観の中にある温泉である。

のぼせてきたら海で泳いで体を冷ます 

岩場にある天然の湯船の中の湯は、海の色とは明らかに異なっていた。色は茶褐色、鉄分を多く含む硫化鉄泉であり、湯船の底からは湯玉がポコポコと湧き出ている。あちこちで湧き出る源泉は80度ほど。もちろんそのままでは熱すぎて入れないので、海水が流れ込んでくるまで少し待ってみよう。

潮が満ちてくると、海に近い湯船から徐々に海水が流れ込んできて、少しずつ湯温が下がり適温になってくる。高さの違う場所に段々と複数の湯船があるが、一番上の大きな湯船が断崖に囲まれて最も迫力がある。ここも満潮になれば、入れるようになるはずだ。

まずは、潮の満ち引きに応じて適温になった海に近い湯船に入ってみることに。

地鉈温泉は多くのガイドブックに掲載されているため、野湯にしては訪問者も多い。水着着用が暗黙のルールとなっているが、温泉の鉄分で水着やタオルが赤錆色になってしまうので、色がついても構わない濃い色の海パンを着用して入湯した。

波が打ち寄せてくるとお湯がぬるくなり、波が引くと熱くなったり。底からはあちこちで熱湯が湧いているので、気を抜いているとアチチッとなった。それらがいかにも貴重な海中温泉体験という感じがする。

熱くなってきたら、少し沖へ出て海水で身体を冷ましながら泳ぎ、冷えてきたら温かいポイントへ戻って再度入湯。泳いだり入湯したりを繰り返していると、楽しくてつい時の経つのを忘れていた。

いつの間にか満潮になったので、一番大きな湯船にも最後に入湯。圧巻の景色で、さすがは多くの賞賛を受ける温泉だと納得させられる。

この地鉈温泉は「内科の湯」と呼ばれており、神経痛・冷え性・胃腸病などに効能があるという。ここは昔から島の人々の湯治場になっていたようだが、明治以前は道もなく、船で渡って湯治に来ていたそうだ。

波しぶきを眺めながらの入浴は、日常生活でたまった心の疲れもゆっくりと治療してくれた。

かつてアシカが傷を癒した温泉へ

地鉈温泉での入湯を十分に楽しんだので、今度は駐車場から東へハイキング道を少し登ってみる。さらにそこから50mほどを下っていくと、半島を挟んだ海岸に出た。

そこに「足付温泉」という、もうひとつの野湯がある。前回紹介した山海の湯からは数分の距離である。

ここは昔、足に傷を負ったアシカが温泉に入って傷を癒していたことから この名が付いたと言われている。既に絶滅したニホンアシカが生息していたことを今に伝える温泉名である。明治時代初期にはこの付近の岩礁地帯でニホンアシカが繁殖していたようだが、乱獲、密猟などにより明治時代後期には絶滅したという。

足付温泉はすぐ近くの山海温泉や地鉈温泉とは異なり、無色透明の温泉だった。泉質はナトリウム・塩化物温泉である。切り傷、擦り傷などの外傷の他、筋肉痛、冷え性、痔やアトピー皮膚炎などに効能があるとされ、地鉈温泉の内科の湯に対して「外科の湯」といわれている。

昔は医療機関のなかった島人にとって、これらの温泉が外科と内科の療養場所だったのかもしれない。 

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