歩いて巡礼するからこそ得られるもの
ただ、四国八十八ヶ所を巡る旅を通して著者が一番感じたのは、地元の人たちとの交流のなかで感じた人の優しさなのだとか。実際にお遍路を経験した他の人の体験談や本の中でも、ほとんどの方が口をそろえて言っています。
これは、「お接待」といって、お遍路さんがいたらお菓子や飲み物などを無償で施す文化が四国には定着しているのもあると思います。ですが、旅先で疲れたり困っている時に、親切にされた経験は、その後の人生での人との接し方に大きく影響を与えることになるはずです。
最近では、昔と違って交通手段が増えたので、大型バスでツアー巡礼したり、自家用車やバイク、自転車といった乗り物で巡礼したりと、様々な巡礼の方法があるようですが、四国ならではの「お接待」を体験して、地元との方との交流をしながら四国八十八ヶ所を巡る旅がしたい方は、本書を片手にぜひ歩き遍路にチャレンジしてみて下さい。
きっと、新しい世界が開けますよ。
【データ】
■中野周平 著『僕の歩き遍路 四国八十八ヶ所巡り』
(2022年5月刊/西日本出版社)
中野周平(なかの・しゅうへい)
1989年山口県生まれ。京都大学農学部森林科学科卒、同大学大学院修士課程修了。学生最後の夏に2週間かけて四国をまわり、讃岐うどんにハマる。システムエンジニアなどの仕事を経て、2020年、30歳で仕事を辞めて四国遍路へ。過去に区切り打ちで1周半ほど歩いたことがあるが、今回は念願だった通し打ちに挑む。現在は岐阜県の果樹園で働きつつイラストレーターや文筆業もしている。
■評者 川田正和(かわだ・まさかず)
1967年、神奈川県生まれ。香川県育ち。明治大学文学部卒。大学を卒業後、出版社に就職するもほどなくして退社。アルバイトでお金を貯めては世界各国への長期の旅を繰り返すうちに、旅行専門の本屋をはじめようと決意。書店員を経験した後、2007年、西荻窪に「旅の本屋のまど」をオープン。日本で唯一の旅行専門の本屋として国内外から注目されている。http://www.nomad-books.co.jp/