アウトドアでのアクティビティや自然の知識を身につけると、外での活動がより楽しくなる。この連載では、そんなためになる本を古今東西問わず取り上げます。
今回は、ネイティブアメリカンに学ぶ、自然との付き合い方や「感覚トレーニング」、さらには、ナイフすら使わないフルサバイバルについての解説書をご紹介。アウトドアが好きな人にとっては、かなり刺激的な内容だと思います。
現代人にとって「自然」とは
今の日本では、生まれてこの方、〝手つかずの大自然〟に一度も触れたことがない人も少なくないかもしれません。
アルパインクライミングが趣味で、人の手で整備された登山道ではないルートを好む評者でも、「道」のあるところまで戻ってくるとほっとして、人工物に守られていることのありがたみを感じます。自然は大好きだけど、本格的に丸腰で立ち向かう度胸はありません。
そんな評者にとって、本書に書かれているネイティブアメリカンの人たちの「自然」との向き合い方は、非常に興味深いものでした。
自然の中で生き延びるたくましい男になりたい
本書の著者は、「自然の中で、ナイフ1本で生き延びることのできる、たくましい男になりたい」と生き方を模索していたそうです。そんななかで、アメリカ・ニュージャージー州にあるサバイバルスクールの門をたたきました。
そこで出会ったのは、アパッチ族直伝のサバイバルスキルを持った、トム・ブラウン・ジュニア。
「どんな場所でも、自然を壊すことなく、何も持たずにサバイバルできる」というその人は、初めて会ったとき、アウトドアではタブーとされている、タンクトップにジーンズ、裸足で地面に座っていたそうです。
対する著者は、フリースにゴアテックス、分厚いブーツといった、いわゆる「正しいアウトドアウェア」に身を包んでいた。けれど、その時〝なぜだか〟そんなトムの姿が「正しく」感じられたそうです。それはなぜなのかということが、本書を読むと明らかになっていきます。
「感覚=アウェアネス」を取り戻すことの重要さ
本書は、サブタイトルに「原始の感覚を取り戻す知覚と精神のトレーニング」とあるように、フルサバイバル術の指南書というよりは、現代人が忘れてしまった感覚=アウェアネスを取り戻すことに重点を置いています。
なぜなら、文明の利器を持たずに原始的な生活を営んでいる人々にとっては、自然をきめ細かく感じ取り、そこに自分を合わせていく力=アウェアネスが重要だから。
人工物のなかで便利な生活をしている現代人は、そういう能力がなくても生きていけるため、人間が本来持っていた「原始の感覚」を失ってしまっているようです。
第1章では、アウェアネスの大切さと、それを鍛えるトレーニング法について解説されています。