湧き出す湯は「雪国での暮らし」の一端を担う
この辺りは豪雪地域でもあり、春先までは深い雪に覆われている。それゆえ、雪解けの水が保水能力の高いブナの原生林の山肌に染み込み、年月を経てこの集落のあちこちから湧き出す、湧水の豊富な里でもある。
この土管の温泉も自噴で、底からの湧出があり、湯はサラサラとした手触りだ。無色・透明のアルカリ性単純温泉と推測され、入湯後には肌がツルツルになった。
勢いよく湧き出す湯は土管から流れ出て、用水路から周りの田んぼや畑に流れ込んでいる。春先には農地の雪を溶かすのに役立っていると思われ、その後も田畑を潤す農業用水として、実際に使用されているようである。
この温泉は、雪国にある湧水の里で、人々の営みの一端を担っているのだ。身体も心も湯温のような、ほのかなあたたかさを感じる野湯体験であった。
※一部に私有地を含む場合がありますので、野湯を訪れる際は事前に許可を取ることを推奨します。
■満澤温泉田んぼの湯
■住所:山形県最上町満澤
■交通アクセス:JR最上駅からクルマで約5分
【プロフィール】
■瀬戸圭祐(せと・けいすけ)
■プロフィール:アウトドアアドバイザー、野湯マニア。NPO法人・自転車活用推進研究会理事。自動車メーカー勤務の傍ら、自転車・アウトドア関連の連載、講座などを数多く行っている。著書に、全国各地の野湯を訪ね歩いた冒険譚『命知らずの湯』(三才ブックス)、『快適自転車ライフ宣言』(三栄)、『雪上ハイキングスノーシューの楽しみ方』(JTBパブリッシング)などがある。2023年7月現在、足を運んだ野湯はトータルで約100湯。