「野湯(のゆ)」とは、自然の中で自噴していて、人の手が加わった商業施設が存在しないような温泉のこと。「日本国内にそんな所が存在するのか?」と思う人もいるかと思うが、じつは人知れず湧出している野湯は全国各地にある。
この連載では、著者が体験した、手つかずの大自然の中で格別の満足感を味わえる野湯を紹介してゆきたい。
今回は、いろいろな源泉を楽しめる河原の湯、宮城県の鳴子温泉駅前にある野湯へと向かう。
奥州三名湯の一つ! 鳴子温泉郷にある河原の湯
東北地方のちょうど真ん中。太平洋と日本海を結ぶ国道47号の、ほぼ中間に位置する宮城県大崎市の鳴子温泉郷。この奥州三名湯の一つに数えられる人気の温泉地に、ちょっとビックリするような野湯がある。
JR鳴子温泉駅から国道47号線を挟んだ反対側には江合川緑地公園が広がっていて、公園内のグラウンド付近に江合川が流れている。いたって普通の公園と川。しかしなんとその河原の中の浅瀬が、そのまま温泉になっているのである!
夏の間は葦が生い茂っているので少しヤブこぎが必要だが、冬季や初春、晩秋といった気温の低い時期には、白く立ち昇る湯気で、国道からでも一目でその存在を確認できる。こんなに道路や公園のすぐそばに、野湯が自噴しているとは意外である。
羞恥心との闘い! 散歩やジョギングをする人から丸見え
今回はこの鳴子温泉郷にあるユニークな湯へ入湯すべく、JR鳴子温泉駅から江合川緑地公園へと向かった。緑地公園のグラウンドを横切って、江合川の河原へと足を進める。
河川敷のグラウンドから河原までは踏み跡のようなものがあったので、簡単に降りることができた。
しかしその先は足元が沈んでいくところもあるので、気を抜かずに慎重に葦原を進んでいく。
するとすぐに河原の中にある白い温泉の流れを発見。数十m以上の川の流れが温泉になっており、濃い硫黄臭が漂っていた。今までの野湯を思うと、この野湯はアクセスのよさが抜群である。
誰かが工事した石積みがいくつかあり、湯船のようにはなってはいるが、どれも浅くて腰まで浸かるのは厳しいかもしれない。
気合を入れてスコップでしっかり掘ればいい湯船ができるかもしれないが……グラウンドでジョギングする人や川べりを散歩する人たちから丸見えだ。
奇異の目で見られることは間違いなしだが、人の目さえ気にしなければどこでも簡単に寝湯を楽しめそうである。