遭難事故は自分だけではなく家族を巻き込む
人はミスをする生き物です。
起きるかもしれないことは、いつか必ず起きる。それは、自分自身も例外ではない……。
長年にわたって登山を趣味としてきた筆者は、いつか自分が遭難事故を起こしてしまい、怪我をしたり、最悪は死ぬかもしれない。あるいは事故現場に遭遇して、救助活動をしなければならないかもしれない、という意識は常に持っています。
しかしながら、「自分が山へ行ったきり帰ってこない」という事態になったとき、家族がどう考え、どういう行動をするのか、という想像をしたことがありませんでした。もしかすると、考えたくなかったのかもしれません。
本書を読むことで、どんな状況が遭難につながったのか、どうすれば防げたのかなど、いろいろと考えさせられます。同時に、残された家族の思いにも触れることができます。
もちろん、山岳遭難と言っても千差万別、同じ事例はひとつもないわけですが、どんなリスクが潜在しているのかを知ることが危険回避の第一歩。実例から学べることはたくさんあります。
また、捜索費用や保険のこと、帰りを待つ家族の気持ちの変化、などに触れたコラムもとても興味深く、読んでよかった、と思えた一冊です。
【データ】
■中村富士美 著『「おかえり」と言える、その日まで』(2023年4月刊/新潮社)
■ https://www.shinchosha.co.jp/book/355011/
■:中村富士美(なかむら・ふじみ)
■プロフィール:1978年、東京生まれ。山岳行方不明遭難者捜索活動および行方不明者家族のサポートを行う民間の山岳遭難捜索チームLiSS代表。DiMM国際山岳看護師、(一社)WMAJ(ウィルダネスメディカルアソシエイツジャパン)野外災害救急法医療アドバイザー、青梅市立総合病院外来看護師。
■ https://mountain-liss.org/works/
■評者 根岸真理
■プロフィール:1961年、兵庫県神戸市須磨区生まれ。1歳前に親に連れられて六甲登山デビュー。アルパイン歴30年の自称アウトドアライター。神戸新聞総合出版より『六甲山を歩こう!』ほか六甲山関連本を4冊上梓。『神戸新聞』のおでかけ情報欄「青空主義」欄に月イチで六甲山情報を執筆中。