この連載では、アウトドアでの予習・復習に役立つ本を古今東西問わずに取り上げます。今回は、山に行ったまま帰ってこない行方不明者の捜索活動に取り組む「山岳遭難捜索チームLiSS」を立ち上げた中村富士美さんが、どんな思いで活動を始めたのか、どんなふうに活動しているのかを克明に綴った本をご紹介。山を悲しみの場にしないために、読んでおきたい一冊です。
山で行方不明になった人の捜索活動をライフワークに
救命救急センターの看護師だった著者。小学生も登るような近郊の低山で、大けがをするなどして病院に運ばれてくる人がいるのはなぜだろう? と思っていたそうです。「山岳遭難」というのは、険しく高い山でしか起きないことだと思っていたのだとか。
著者・中村さんが救急法の講習会で講師をしていたとき、受講者のなかに山岳救助に関わっている人がいて、「なぜ近場の低山で人はケガをするのか」という疑問を投げかけたところ、「現場を見たいなら連れていきますよ」と言ってもらったことが、彼女の活動の始まり。
ある行方不明者の遺体を発見したことがきっかけとなって、捜索活動を行う民間捜索組織を立ち上げ、代表を務めるまでに……。本書では、その経緯が詳しく綴られています。
中村富士美さんが医療の世界を志したのは、小学校4年生の頃に、テレビでベトナム戦争のドキュメンタリーを見たことがきっかけだったそうです。戦争という理不尽で悲惨な出来事の裏に、傷ついた人々を助ける人がいる──。
そういう気づきが、やがて「医療者として、傷ついた人のケアに携わる人になりたい」と思いにつながったそう。
看護師として働くことと、突然いなくなった家族を探し求める人々に寄り添うことは、中村さんにとっては同じ大切な自分のミッションなのでしょう。
山や医療のプロがタッグを組んだ捜索チーム
医療資格保持者、登山ガイド、山岳救助経験者などのスペシャリストで構成される「山岳遭難捜索チームLiSS(Mountain Life Search and Support)」は、警察などの公的組織が捜索活動を打ち切ったあと、家族からの依頼によって捜索活動を行っています。
突然家族が行方不明になった人たちは混乱し、深い悲しみのなかにありながらも、なんとしてでも探し出したいという思いがあります。そんな人々の気持ちに寄り添いながら、実際に捜索に取り組んだ実例6件も解説されています。
たとえば、警察による捜索活動は、やがて打ち切られることになります。
それでも、家族としてはどうしても探し出したい。そんなときに、ご家族からの依頼で捜索活動に。自宅に残された登山計画に使われた資料を調べたり、ふだんどんなスタイルで山歩きをしていたのかを聞き出して、現地での行動を推理することも。
また、登山経験の浅い友人を伴って現地を歩き、迷いそうな場所や危険と感じる場所を指摘してもらったりすることもあるのだとか。警察や救助隊の捜索活動とは違う視点やアプローチが興味深いところ。