クレバスに落ちたらどうする? 「まさか」に備える実践的な訓練
昭和基地がある東オングル島周辺の海氷や、南極大陸の氷床には、あちこちにクラックやクレバスがありとても危険です。そうした亀裂に落ちてしまったときに自力で脱出するために、「ロープ登行訓練」が行われます。
この訓練では、木の上のほうの枝にロープを結び、空中にぶら下がったロープを上っていきます。使うのはロープとカラビナ、ハーネスのみ。実際の南極では、近くに雪上車があればそこに、なければ氷に支点を取り、そこにロープを固定するとのこと。
参加者たちがいざやってみると、吊り下がった状態でバランスを取るのが難しく、悪戦苦闘する人が続出。永木さん曰く、「山などでレスキューをする際に使う技術なので、最初は山岳経験者以外はほぼ全員うまくできないですね」とのこと。コツをつかんでできるようになれば、スルスルと木に登る感覚がとても楽しいそうです。
このほかに行われるのが「ルート工作訓練」です。南極におけるルート工作とは、海氷上や氷床上を安全に移動できるルートを作ること。そのためにドリルで氷に穴をあけて厚さを測り、安全が確認された数百メートルおきの地点に赤旗を立てて目印にします。
さらに旗を立てた位置と、旗同士の磁方位を測定・記録し、それを地図に落として完成。野外行動の際には、そのルートをたどって移動します。
冬訓が行われる場所には海氷や氷床はないので、訓練ではあらかじめ地形図で決めておいたポイントを目指して、グループごとにルートを決めて進みます。南極で実際に使われているハンディーGPSとハンドベアリングコンパスを使用し、道具にも慣れる訓練をします。ちょっとオリエンテーリングに近い感じだそうです。
最後に、これまで何度も冬訓に参加している永木さんに、冬訓で楽しみにしていることを聞いてみました。「冬訓は、南極に行く人にとって最初の集まりです。そういう意味で、どんな人がいるのかなということに興味がありますね」
南極の過酷な環境のなかで、助け合って過ごすことになる隊員たち。訓練のなかで打ち解け合い、南極行きを経てかけがえのない絆が生まれることも少なくありません。隊員が南極で見つける最大の宝物は、人とのつながりなのかもしれません。
【取材協力】
■国立極地研究所