降るような星空と闇にきらめく無数の光に囲まれて
一部の登山者には非常に人気の高い幕営適地だが、トイレも水道も何もない、ただの草地。水も、東西どちらも少し尾根から下ったところで得られるが、飲み水としてそのまま使えるかどうかの判断は自分でしなければならない。源頭に近い水場なので、とくに問題はないと判断し、そのまま利用したが、大雨のあとなどで濁っていればろ過が必要かもしれない。
かつて、ここは小さなスキー場があったらしいのだが、その頃の面影を残すものはほとんどない。人工的に切り開かれ、利用されていた場所も、年月が経てば徐々に自然に還っていくということがよくわかる。建物の痕跡などもほとんどなく、見渡す限り、すべて植物に覆われている。
台高山脈縦走を試み、明神平でソロテント泊をしていたときのこと。天候はおだやか、昼間よく晴れていたので、きっと星がきれいだろうと思いつき、真夜中にテントの入り口を開けて顔を出してみた。
ひんやりとした夜の冷気の中、見上げた空には、満点の星。晴れた冬の北アルプスで見たゴージャスな星空に負けないほど、無数の星が輝いていた。
そして、ふとまわりを見回してみると……。
テントのまわりに、ずらりとこちらを取り囲むような光。二つずつ並んだ小さな輝きは……。
やや遠巻きに、テントを取り囲んでいる鹿の目が光っていたのだった。草食動物だし、人間を襲うわけはないと思ったけれど、深い山の中でただ一人、多数の目に取り囲まれている状況というのは、なかなかシュールな体験であった。
明神平をベースにのんびりするなら、明神岳~桧塚奥峰を往復するのもよいプランだと思う。
また、大又から縦走するのであれば、大鏡山から薊岳を越えて明神平で一泊。伊勢辻山を経て高見山へ抜けてもよし、大又にクルマを停め置いているなら三度小屋辻から大又へ戻るコースもいいだろう。
紅葉シーズンの週末や連休なら、それなりに人がいることもあるのかもしれないが、冬も含め、これまでに筆者が何度か訪れたとき、ほかのパーティに会ったためしはない。
便利なものはなにもなく、ただ静寂だけがある場所。それこそが魅力の幕営地だと思う。
【データ】
■幕営地名:明神平
■住所:三重県松坂市飯高町・奈良県川上村
■営業期間:通年営業
■著者:根岸真理
1961年、兵庫県神戸市須磨区生まれ。1歳前に親に連れられ須磨アルプスで登山デビュー。ハイカー歴60余年、アルパイン歴30年のアウトドアライター。『六甲山を歩こう!』(神戸新聞総合出版センター)ほか六甲山関連本を4冊上梓。『神戸新聞』のおでかけ情報欄「青空主義」に月イチで六甲山情報を執筆中。