地球の息吹を感じる湖岸断崖の湯
自然探勝路に戻って北上し、和琴半島の先端を目指す。そこには屈斜路湖を一望できる和琴半島展望台があり、湖岸の断崖下から「オヤコツ地獄」が見える。
自然探勝路を外れて降りて行けそうな、赤茶けた粘土質の滑りやすい斜面を下る。ストックを使って三点確保しながら慎重に下って行くが、山靴の裏に赤土がこびりついて歩きにくい。
湖面の岩場まで降りると、硫黄の匂いが立ち込めていた。シュ~っという音とともにモウモウと噴煙をあげるオヤコツ地獄。風向きによってその白く硫黄臭い噴気が、襲いかかってくる。
足元の湖岸のあちこちでは100℃近い熱湯がボコボコと湧出し、湖に流れ込んでいた。まさにこの星は生きているのだと、地球の息吹を実感できる。
湖と一体化した開放的な野湯を満喫
湖岸には湧き出す熱湯と湖水と調整する、先人の工事した石の堰があちこちにあり、湖水と混じるような湯船がいくつも作られていた。
熱すぎる場所が多いが、崖下の湧出口から離れるほどに湖水が増えて適温になっていくので、そのあたりで入湯する。まるで湖の中に浸かって湯浴みをしているような感覚だ。
しかしうっかりしていると、突然湖の底からも熱湯が湧き出してきて、お尻が「アチチッ」となる。
ちなみに「オヤコツ」とはアイヌ語で和琴半島の名称で、〝お尻が陸地にくっついている島〟という意味らしい。そこでお尻を湖底にくっつけて「アチチッ」としているのである。
湖水とブレンドした湯船からは湖を一望でき、遮るものは何もない。
キラキラと輝く湖面には、日本の淡水湖の中で一番大きな島である中島が浮かんでいる。
この島は屈斜路カルデラの火口であったこともあり、温泉成分で青味がかった湖水と噴煙のコントラストが鮮やかだ。
野湯は開放感に溢れており、夏にはそのまま湖で泳ぐ人もいるという。大自然の中で湖と自分が一体化しているかのような壮大な気分に浸りながら、希少な湖畔の野湯を満喫した。
※一部に私有地を含む場合がありますので、野湯を訪れる際は事前に許可を取ることを推奨します。
【データ】
■施設名:奥の湯
■住所:北海道弟子屈町屈斜路
■交通アクセス:JR川湯温泉駅から自然探勝路入口まで車で約30分
■施設名:オヤコツ地獄
■住所:北海道弟子屈町屈斜路
■交通アクセス:JR川湯温泉駅から自然探勝路入口まで車で約30分
【プロフィール】
■瀬戸圭祐(せと・けいすけ)
■プロフィール:アウトドアアドバイザー、野湯マニア。NPO法人・自転車活用推進研究会理事。自動車メーカー勤務の傍ら、自転車・アウトドア関連の連載、講座などを数多く行っている。著書に、全国各地の野湯を訪ね歩いた冒険譚『命知らずの湯』(三才ブックス)、『快適自転車ライフ宣言』(三栄)、『雪上ハイキングスノーシューの楽しみ方』(JTBパブリッシング)などがある。2023年5月現在、足を運んだ野湯はトータルで約100湯。