事件は終わっていなかった 加害グマはまだ生きている!?
タケノコ採りの季節も終わり、雌グマの射殺によって一連の事件が収束したかに思われていた6月下旬、鹿角市在住のE(54歳)がクマに襲われたという一報が入る。
Dを発見した現場から南に約9kmの大湯大清水の山林で「母子3頭のクマ」に遭遇し、逃げようとしたところを母グマに襲われ、全治2週間の怪我を負った。そう、事件はまだ終わっていなかったのである。
さらに調査が続けられてゆく中で、Dの現場付近を移動する体長約150cmの「大型のクマ」が目撃されていたこと、食害されていた量の多さと頭骨欠損など強大な力が加えられたとみられる遺体状況、各現場付近で目撃された加害熊の特徴の食い違いなどから、関係者の間では「主犯は大型の雄グマ1頭であり、他にも殺害・食害に参加した複数のクマ(射殺された雌熊グマ)がいる」という説が濃厚になっていった。
ちなみに、射殺された雌グマの胃内容物の3分の2はタケノコであり、確認された人肉量はDが食害された量と一致しないため、もっぱら1頭で肉食していたとは考えづらかった。おそらく、主犯の雄グマが殺害・食害した後でこの雌グマが現場を訪れ、食害にのみ参加したのだろう。
主犯と考えられていた「大型の雄グマ」は、9月3日、田代平のデントコーン畑で捕獲檻に入っているところを発見、駆除された。推定4歳で体重は84kg、射殺時は狂乱状態だったという。
このクマは熊取平で最初の犠牲者を襲撃したのち、捜索ヘリなどの騒音を嫌がり田代平へ移動、Cを襲ったとみられている。さらにCの現場から北西に伸びる笹藪を伝い、第4事故現場の森に現れたのではないか。
3者の遺体の損傷具合から、襲ったのは大型の雄グマと考えるのが妥当だからだ。また、獲物(遺体)を隠すために、枯葉や土をかける行為は、雄グマにみられる特徴でもある。
ただし、Bを襲ったのは、「毛は黒くなかった」「遺体のそばで子グマが遊んでいた」「体長150cm、体重120kgほど」などの目撃情報から、「子連れの大型の雌グマ」であるとの見方が強い。
10歳以上の高齢の雌グマは毛の色が赤みを帯びていくのが特徴で、この春に出産したとすると、ひどく消耗していたはずだ。おそらく、第一現場で食害に参加して味をしめ、殺害を犯したのではないかと考えられる。
さらに6月下旬にEを襲った「母子3頭のクマ」の母グマは、また別のクマと考えられており、9月9日に田代平で、2頭の子グマのみ駆除されている。
生き残った母グマと、5月26日に男性を襲った額左側に古傷のあるクマ、そしてBを殺害したとされる「子連れの大型の雌グマ」は、その後駆除されたという話がない。過去に殺害や食害経験のあるクマは再び人を襲う可能性が高く、まだ生きているとすれば危険な状態であるといえるだろう。
【データ】
■書名:『日本クマ事件簿』(三才ブックス)
■出版社:三才ブックス