極限サバイバルを〝人間〟として生き抜く
数年後、愛犬シロの死をきっかけに群馬県から新潟県へ移り住む。シロが死んだという描写を読んだとき、このあと「シロも食べちゃうのかな?」と変な期待をしたんだけど、さすがにそれはなかった。人間一馬さんは獣への一線を超えなかった。そう、この本を読んでいて嫌な気分にならないのは、極限のサバイバル生活をしていても、彼が畑の農作物を勝手に取ったり、民家に忍び込んでものを盗んだりしないからだ。これは大事なこと。
シロの死をきっかけに一馬さんは群馬を離れる。基本は徒歩移動。群馬から新潟、山梨。死にたくなって富士の樹海に行ったこともある。でも死ぬことはできずに、また生きる道を選ぶ。そこからヒッチハイクで茨城、福島へと居住地を移していく。
最終的にどうなるかっていうと、そりゃ中学生で文明の道を放棄した一馬さんが、こうして自分の過酷な人生を文章に表し、書籍にまでしているのだから、幸せな着地点を見つけられたということなのだ。
半笑い気分で読み始めたこの本、素晴らしく実践的なアウトドアブックでもあり、グイグイ引き込まれて一気に読み終えてしまった。
サブタイトルをつけるなら「戦争を知らない小野田さん」というところかな。
■書名:『洞窟おじさん 荒野の43年』(2004年4月刊/小学館)
■URL:https://x.gd/Qcf1n
■評者:とみさわ昭仁(とみさわあきひと)
■プロフィール:1961年東京生まれ。フリーライターとして活動するかたわら、ファミコンブームに乗ってゲームデザイナーに。『ポケモン』などのヒット作に関わる。2012年より神保町に珍書専門の古書店「マニタ書房」を開業。2019年に閉店後は、再びフリーライターとして執筆活動に入る。近著に『レコード越しの戦後史』(P-VINE)、『勇者と戦車とモンスター』(駒草出版)など。
■Twitter:https://twitter.com/hitoqui_ponko