アウトドアを楽しむとき、自然のなかに入っていく人間側が不用意にクマに出遭ったり、襲われたりしないよう、どのような注意が必要なのか。クマ研究の専門家、山﨑晃司先生に伺ってきたシリーズの4回目。最後は、クマと人の関係などについて先生に語っていただきました。
山に木が増えたことが人との〝あつれき〟を生む
全国的にクマの出没が頻繁になっており、市街地にまで出てくる目撃情報が後を絶ちません。「クマが人里に出てくるのは、山の状況が悪くなったからだとよく言われますが、私は違うと思います。1700~1800年代の近世から明治や大正時代と比べたら、むしろ山の状況はよくなっているはずです」と語る山﨑先生。
「昔は炭や薪を大量に使っていたことや、焼き畑や家屋の屋根材を得る場として広大な土地を管理していたともあり、山に木は少なかった。この状態は、戦争が終わってから木材が不足したので、国策として拡大造林事業に乗り出し、山を皆伐して杉やヒノキを全国的に植林する時代まで続きました。
しかしその後は、人の暮らしの変化や外国材への依存などから、クマだけではなく、野生動物が利用できる森が復元されてきています。森が増えて人が減れば、クマのプレッシャーは減り、クマと人との〝あつれき〟は増すわけです」
クマは個性的で興味深い生物
山﨑先生は学生のころ、クマの調査を手伝うことから始まり、次にシカの研究、アメリカに渡りライオンの研究を行い、帰国後、アジアで唯一クマが増えている日本でクマの研究を行うことに。
「あつれきは、すべてのクマが引き起こすわけではなく、特定の問題個体があつれきを生むわけです。ということは、クマそれぞれに個性・個体差があり、そのことにおもしろさを感じました。
私はクマの生態や生理を研究しています。その行動の裏にある理由を一つひとつひも解き知ることで、問題個体の発生のメカニズムに迫ることができ、あつれき発生の抑制や問題個体の管理に役に立つのではないかと思いました。そうはいっても、クマは謎が多い生き物。些細なことが1年にひとつわかる程度だと思います」