植物との出会いを楽しむ様子が魅力
花だけではなく、キノコについての記述もいくつかあります。
幼いころに、郷里の佐川の山で、フットボールほどの大きさの白い丸い球をみつけて、「ははあ、これはキノコの化け物だな」と直感したというエピソードを紹介しているのが、「佐川の山野」の章です。
その不思議なきのこは、牧野家に仕えていた下女の女性が「狐の屁玉」だと教えてくれたとか。
五、六月頃、竹藪や樹林の中に忽然とあらわれる「オニフスベ」というキノコを、土佐では「狐の屁玉」と呼んでいたようです。
ただ見るだけでなく、成長過程もじっくり観察し、名前の由来についてや、古書に書かれていることなど、読書によって得た幅広い知識なども盛り込まれていて、とても興味深く読めます。
最後に、本扉の次のページにはこのような一文がありました。
『山草の採集』から
「弁当は缶詰物よりも握り飯に梅干がよく、味噌汁は山ではしごくよい」
次に山に行くときには、梅干しのおむすびと、スープジャーに味噌汁を入れて行くのもいいかも。折しも、山笑い、野山の植物が元気に萌えたつ季節。さて、どこの山で、どんな植物に出会えるでしょうか。
【データ】
■牧野富太郎 著『牧野富太郎と、山』(2023年3月刊/山と溪谷社)
■URL:https://www.yamakei.co.jp/products/2822049630.html
■プロフィール:牧野富太郎(まきの・とみたろう)
1862年、高知県佐川町出身。幼少期より自宅近くの山々で遊び、植物の知識を身につける。1884年、22歳で東京大学理学部植物学教室に出入りするようになり、日本人として国内で初めて新種に学名をつけるなど、日本植物分類学の基礎を築いた一人として知られている。現在でも研究者や愛好家から愛される『牧野日本植物図鑑』(北隆館)を刊行。1953年東京都名誉都民。1957年文化勲章受章。
■評者:根岸真理
■プロフィール:1961年、神戸市須磨区生まれ。1歳前に親に連れられ須磨アルプスで登山デビュー。ハイカー歴60余年、アルパイン歴30年のアウトドアライター。『六甲山を歩こう!』(神戸新聞総合出版センター)ほか六甲山関連本を4冊上梓。『神戸新聞』のおでかけ情報欄「青空主義」に月イチで六甲山情報を執筆中。