〝地獄〟から流れる翡翠色の湯に浸かる
このあたりの地獄地帯は、白い大地の幾条もの小さな流れが集まって、ひとつの細い湯の川となって東へと流れている。木のない尾根伝いに10分ほど歩くと湯の川がV字谷の沢になっていて、硫黄の臭いと湯気が立ち昇る地獄の渓谷に気分も上がってくる。
谷に降りるとあちこちでお湯が湧き出ており、岩盤の上の地獄からの流れに合流して、湯の沢となっている。湯温は上流ほど熱く、下流ほど温度が下がる。さらに下って行くと、流れるお湯を堰き止めた湯船跡があちこちに見つかる。積雪期は比較的湯温の高い上流での入浴が望ましいが、岩盤地帯で上手く湯船を作れないこともある。先人が作った湯船があれば改修工事をして入湯したい。沢のお湯は無色透明だが、それが溜まった湯船は綺麗な翡翠色をしている。
酸性硫黄泉ならではの体に優しく、ピリッとくる力強さを感じるお湯で、湯面からはふわっと明礬の匂いが漂う。そんなお湯に浸かるのは地獄ではなく極楽気分満喫である。
長湯で極楽へ行かないように注意!
荒湯地獄付近には、「危険! 立入禁止」の看板が立っている。死に至るリスクもある高濃度の硫化水素ガスが噴き出しているのである。このガスは東側に位置する野湯エリアにも風の状態次第で流れ込んでくることがあるので、注意が必要だ。硫化水素ガスは重い気体なので低いところに溜まり、谷に沿って流れてくることもある。
特に弱い西風や風の穏やかな日、霧が出ている日などは要注意。明るく見通しがきき、ある程度風の強い日の訪問をおすすめする。
いずれにせよこのエリアにはあまり長居はするべきでない。実際私はあまりの心地よさに数時間滞在してしまい、有毒ガスで頭痛や喉の痛み、気怠さに苛まれてしまった。仲間と一緒だったので大事には至らなかったが、地獄からの流れに極楽気分で長湯していると、そのまま本当の極楽に行ってしまうかもしれない。危険性を十分理解した上で、自己責任で安全を確保していただきたい。