5年で土に還るヤクの毛
山梨県甲府市にある『エルク』は、登山・トレッキング・クライミング・キャンプなどアウトドア用品の店。創業して以来40年、アウトドア業界では知られた老舗が、オリジナルブランド『MaHoRoBa』を立ち上げ、環境に配慮したヤクの毛を使ったアイテムを発売しました。オーナーの柳澤さんに、その想いを聞いてみました。
南アルプス市(旧白根町)出身、オーナーの柳澤仁さんは登山をはじめ、釣りやカヌーなどにも精通するアウトドアのプロ。20代で単身アメリカに渡り、本場のアウトドアの世界を体験して日本へ戻り、1983年、故郷の山梨に『エルク』を開業しました。
昨年、柳澤さんは奥さんとともにオリジナルブランド『MaHoRoBa』を立ち上げ、ヤクの毛100%のセーターなどを発売。ブランドカードに「還る、服」と記されているのは、素材であるヤクの毛が5年ほどで土に還る繊維だから。なぜ柳澤さんは、ヤクの毛の商品を作ったのでしょうか?
マイクロプラスチックによる海洋汚染を知る
「6~7年前のある日、新聞で『北極圏に繊維状のプラ』『洗濯水、世界の海汚染か』という見出しの記事を読み、洗濯排水の中に含まれる大量のマイクロプラスチックが、北極圏にたまっていることを知りました。マイクロプラスチックの約9割がポリエステルなどの化学繊維だということで、それは本当に衝撃でした。
私が店を始めたころ、アウトドアの中間着はウール製品が多かったのですが、40~50年前にアメリカの有名ブランドがフリースを発売し始めると、あっという間にウール製品はフリースに取って代わられました。もちろん私も良い素材だと思い愛用していましたし、フリース製品を販売してきました。
しかし、洗濯により化学繊維が海へ流れ出て、たったの40~50年の間で海にマイクロプラスチックがたまり、魚を通じて人間も日々プラスチックを食べていると言われるようになってしまいました」(柳澤さん)。
ちょうどそのころ、ヤクと暮らすブータンの映画を観て自然循環的な暮らしを見直したこともあり、環境や暮らしを守るために、今から少しずつでも行動を起こさなくては手遅れになる、と柳澤さんは危機感を持ちました。
環境負荷の低い製品を! 山梨県発のものづくり
偶然に、店の常連客だった甲府の繊維企業、小林メリヤス株式会社の社長さんから、ヤクの毛を取り扱っていることを知り、共鳴し合ったふたりは協力して天然素材のアイテムを作ることに。「地元の信頼できるメーカーさんと、山梨発の持続可能なものづくりを進めていきたいという想いもありました」。
標高4000~6000mの高所に生息するヤクの毛は、柔らかなヒゲ部分のみが使われ、フワフワとしているのに丈夫。毛玉ができにくいうえ、ウールに比べて130%の保温力があり、約30%軽量です。しかも、廃棄したとしても5年で土に還るという、良いことづくめの天然素材。
「本格的な登山で着ると暑い!と言われました(笑)。それくらい保温性がありながら、驚くほど軽いのです。唯一の難点は希少性が高いため、値が張ることでしょうか」。セーターは、アウトドア用に動きやすさにこだわったつくりで、洗濯機で洗えて手入れもラク。カラーは染色を行わない白と茶のみで、販売価格は3万5000円(税込)です。