旅の本屋「のまど」の店長・川田氏がキャンプ・アウトドア好きにぴったりの本を選びます。今回はアウトドア好きの憧れの土地のひとつ、パタゴニアでの旅を綴った一冊をご紹介。
最果ての地「パタゴニア」の旅を巧みに描いた名作
本書は、『ソングライン』『ウィダの総督』といった作品で知られる著者が、南米最南端の不毛の大地、パタゴニアに漂着した人々の見果てぬ夢を自身の旅での出会いを織り交ぜながら綴った、紀行文学の古典といわれる作品です。
「パタゴニア」と聞くと、大半の方はあの有名なアウトドアブランドを思い浮かべるのではないでしょうか。
ブランド創業者の登山家のイヴォン・シュイナードは、パタゴニアが地図には載ってないような遠隔地というイメージがあり、フィヨルドに流れ込む氷河、 風にさらされた鋭い山々の頂、ガウチョやコンドルが飛び交う空想的な風景が思い起こされるためにブランド名にこの地名を使ったのだとか。
実際のパタゴニアはどんなところかというと、南米大陸の南緯40度以南のチリとアルゼンチン南部、日本の国土の約3倍もある広大な一帯を指す総称になります。
ペリトモレノ氷河、パイネ国立公園にある岩山ラストーレス、世界中のトレッカーやクライマーが憧れる岩山フィッツロイなど。
フィヨルドが複雑に入り組んだ山と湖や緑豊かな絵はがきのような景色、肌を刺すような強風が吹き不毛の地を感じさせる荒涼の大地など、日本では見ることが出来ないようなスケールの大きい手付かずの大自然が残るアウトドア好きなら一度は行ってみたいと思う場所なのです。
大自然よりもそこで過ごす人々の魅力に迫った作品
世界的に紀行文学の名著として様々な人が絶賛するほど評判の高い本書ですが、旅の本屋というお店をやっていながら、じつは恥ずかしいことに、つい最近まで読んだことがありませんでした。というか、あまりにも紀行本として有名なあまり、自分のなかで勝手にハードルをあげてしまい、読むのをためらっていたというのが正直なところです。
ただ、旅の本屋をやっている以上、そろそろ読まないとと思い、先日、重い腰をあげて読んだのですが、意外なことにあの有名ブランドのイメージに象徴されるような雄大な自然の描写や記述が本書のなかにはほとんど出てこないのです。
てっきりこの本はパタゴニアを旅した際に、著者が目にした雄大で荘厳な自然に感動してその描写に溢れているものと思っていたのですが、大きな勘違いをしていました。多分、読んだことがない大半の方も同じような勘違いをしているのではないでしょうか。
では、一体何が書かれているかといえば──。
パタゴニアという気候の厳しい南米の辺境の土地に、移民として、あるいは逃亡犯として世界中から流れつき住みついた様々なバックボーンのある人たちと旅をしながら交流し、彼らが元々いた国や地域の歴史や政治、文化などを紹介したエピソードを交えながら、パタゴニアという土地が持つ魔境的な魅力を巧妙な文章で描いているのです。