旅の本屋「のまど」の店長・川田氏が「本を通して”旅”を感じ、”旅”への想像をかきたてられる」がテーマのキャンプ・アウトドア好きにぴったりの本を選びます。今回は、破天荒な旅っぷりが魅力のこの本から連載スタート。冒険に出かけてみたくなる一冊です。
著者のキャラからは想像できない破天荒な旅っぷり
本書は、高校受験前に自身の死について自覚し、自転車世界一周の夢を掲げ、高校卒業後に自転車日本一周を経験した著者が、次の旅として22歳でオーストラリアから自転車世界一周をスタートし、コンゴ共和国でマラリアと腸チフスで死にかけ、チリで寝床のテントが突風で吹き飛ばされ、メキシコでナタを持った強盗に襲われるなど、トラブルの連続のなか、何物にも代えがたい数々の出会いを通じて体感した150カ国と13万kmの自転車世界一周の約11年間の旅の軌跡が綴られた1冊です。
著者の周藤さんとは、本書の出版記念トークイベントを当店で開催した時にお会いしていますが、シャイで人見知りする感じのどこかおどおどした雰囲気なので、「本当にこの人が自転車で世界一周したの?」と疑ってしまうほどなのですが、本書のなかの周藤さんは常人とは思えないほどエネルギッシュに旅をしています。
高校の卒業旅行で自転車で日本一周した際に、テント、寝袋、調理ストーブを購入して、野宿や自炊の経験を積んで、自転車のパンク修理もマスターした周藤さん。世界一周の自転車旅の過程でもオーストラリア/インドネシア/キルギス/トルクメニスタン/モロッコ/西サハラ/ボリビア/チリ/アルゼンチンといった国々でテントを張って野宿しているのですが、その場所は、道路脇/湖畔/砂漠/高地/塩湖/民家の軒先など多岐にわたり、そのバイタリティには驚かされます。
どこにでもテントを張って寝泊まりするも危険も
インドネシアでは、草が生い茂り石が転がる幹線道路から外れた場所でテントを張って仰向けになっていると、地元民数人に見つかって警察を呼ばれそうになったり、西サハラでは砂漠の荒野にテントを張っていると、深夜にクルマが来て数人の不審な男達が近くで何をしているか分からない状況で、見つからないように息を殺してやり過ごしたり、緊張の連続のなかでもテント生活を選択しているのです。そして草を食む羊の群れの横でテントを張ることも……。
また、彼は旅の道中に一日に何百kmと自転車で走っているのですが、「長く自転車に乗っていると、平坦な道ばかりだと飽きてしまう」ということで、南米のアンデス山脈あたりではわざざわ勾配の急な山道を選んで走っているのです。それを彼は「苦痛が快感に変わるチャリダーの境地」といって楽しんでいるのですが、それはママチャリでしか自転車旅をしたことのない私のような常人には分からない感覚なので、改めて11年という自転車旅の年月の長さに凄みを感じます。写真はウユニ塩湖での一コマ。